第880話 それぞれに向かう場所
フェルメさんたち『緑の牙』とは食事スペースで別れ、私たちは冒険者ギルドを出た。
背後から、色んな視線を向けられてはいたけれど、その場にいるメンバーがメンバーのせいか、ギルドを出るまで誰も突っかかってはこなかった。
「テオ、依頼は受けてきたの?」
ガズゥとおしゃべりしながら前を歩いていたテオに声をかける。
「うん! やくそうとってくるやつ!」
「何の薬草?」
「タイムン!」
「タイムン……熱さましに使う薬草だっけ?」
オババとハーブや薬草の話をすることも多いので、私でも覚えてしまった。
「うん! このじきでもはえてるばしょもおしえてもらったんだ!」
「私も一緒に行くので大丈夫です」
テオパパのガイシャさんがニカッと笑った。笑顔がテオとそっくりだ。
「俺たちは魔の森のほうの依頼を受けたんで」
リーダーのボドルさんが言う。すでに納品を終えて、お金は十分貰っている『疾風迅雷』の面々だけど、ギルドのほうから頼まれたらしい。
そうなると、テオたちも、『疾風迅雷』もしばらくはケセラノに滞在することになるということだ。
「俺とガズゥは、アースドラゴンの生息地に向かいます」
ネドリさんが手を上げてそう言った。隣にいるガズゥも頷いている。
しかし、ケセラノからアースドラゴンの生息地と思われる場所は、かなり遠い。
「え、だったら、エイデンに連れて行ってもらったほうが早くない?」
「あはは。それはさすがに」
「いいぞ。近いところで下ろしてやる」
「いや、しかし」
「ギルドマスターですら、信用してなかったんだ。ギルドからの連絡を受けても、どうせ小さい村じゃ、動く者もいないだろう」
「早くはっきりさせたほうがいいのよね?」
私とエイデンの言葉で、ネドリさんとガズゥは、エイデン航空を使うことになった。当然、私も同行する。
せっかくの獣人がたくさんいる街だから色々見たかったけれど、さすがに一人で見て回る勇気はなかった。
「戻ってきたら、観光ね」
「ああ。約束する」
「じゃあ、さっさと行こう!」
私の気合の入った声とともに、私たちは街を出るために門のほうへと向かった。
* * * * *
冒険者ギルドの建物から少し離れたところから、五月たちの様子を窺っている者たちがいた。
ジスランを苛めていた獅子獣人のパーティの犬獣人たちだ。
「おい、あいつら街を出ていくぞ」
「ジスランは、まだ中か」
「それよりも、あいつらのほうだろ」
犬獣人たちはそれぞれに、顔に青あざが出来ていた。リーダーの獅子獣人に殴られた跡だ。
屋敷に連れ帰ったところで目が覚めた獅子獣人の怒りの矛先が、彼らに向かったせいだ。
「でもよ、元SランクとBランクパーティの『疾風迅雷』だぞ? 俺たちじゃ、歯が立たないだろ」
「まぁ、無理だろうな」
「だよなぁ」
「でもよ、あの親子だったら、いけんじゃね?」
犬獣人たちはテオとガイシャ親子に目を向ける。
「あのガキ、薬草採取に行くって大声で言ってたからな」
「ああ。人質にでもして、報復してやればいいんじゃね?」
「屋敷に戻って声かけてくるわ」
「あいつら動き出したから、早くしろよ」
「わかってるって」
一人はパーティメンバーのいる屋敷へ、もう一人は五月たちの後を追う。
五月たちは街の門を出たところで、二手にわかれた。
――あの親子は、魔の森か。
テオたちが『疾風迅雷』の面々とともに魔の森へと向かっていくのを目で追いながら、犬獣人は距離をあけながら追いかけた。
* * * * *
『ねぇねぇ、あのいぬっころ、どうする?』
『もういっぴきも、なんかぞろぞろつれてきてるよ?』
『ん~、でも、ボドルたちもきづいてはいるみたいだよぉ?』
『まぁ、わたしたちがいるしぃ』
『いるしぃ』
『もりのなかでまよわせちゃう?』
『いいねぇー!』
……精霊たちは、やっぱりマイペースである。





