第876話 ギルドマスター、叫ぶ(2)
ジャロさんは頭を抱えてブツブツ何か言っている。
「なんだ、なんだ。あの大きさの鱗は。それに、あの魔道具はなんだ。あんな詳細な絵が、あの一枚の板っきれで……」
「おい」
エイデンの声で、ハッとなるジャロさん。
「と、とりあえず、その鱗は鑑定させてくれ」
「はぁ?」
「いや、お、大きい鱗だけど、それがドラゴンとは限らんだろ?」
「だから、五月の画像を見せたんじゃないか」
「そ、そりゃぁ、随分と綺麗で詳細な絵だが、所詮、絵だ……ろ……」
ジャロさんは言い切る前にガタガタと震えだした。顔色が真っ青だ。
――もしや!
私は慌ててエイデンの頭を叩く。
「あ痛っ」
その途端、ジャロさんはドサッとソファの背もたれに背中を預けた。顔色は変わらないけれど、だいぶお疲れな顔だ。
「痛い、じゃない。何やってんのよ」
「だって、こいつが五月のことを信用しないから」
イケメンなのに口を尖らせて文句を言うエイデン。
「しょうがないでしょ。私も、村でやるのと同じ感覚でタブレット出しちゃったんだし」
「そんなの関係ないだろ」
「エ・イ・デ・ン」
「……わかったよ」
「すみませんね。とにかく、アースドラゴンは、います。調査依頼は出してもらってるんだし、もう、ここには用はないですよね? ネドリさん」
私がネドリさんに確認すると、苦笑いを浮かべている。
「はい。私はちょっとジャロと話があるので、ガズゥを連れて先に下に行っててくださいますか?」
「はい。エイデン、ガズゥ、行こう」
「わかった」
「はーい」
私はペコリと頭を下げると、エイデンとガズゥをつれて、部屋を出て行った。
* * * * *
ドアが閉まったとたん、ジャロはガバッと背もたれから身体を起こす。
「おいっ! なんなんだ、あの威圧はっ!」
「まぁ、落ち着けよ」
「落ち着いてられるか! 俺を威圧で動けなくさせるとかっ!」
どこに余力があったのかギャーギャー文句を言うジャロ。
そんなジャロをよそに、ネドリがマジックバッグから水筒を取り出し、ジャロと自分の分用にとマグカップを出し、そこにお茶を注いだ。
「あ、ああ。すまん。こっちが茶の準備をしないといけなかったな」
「いや、事務方が忙しいんだろ」
実際、『疾風迅雷』が出した魔物の素材がとんでもない量だったせいで、事務方まで総出で対応しているのだが、ネドリは知らない。
ジャロはネドリのいれたお茶をゴクリゴクリと飲んでいく。
「はぁ。美味いな。このお茶」
「ああ。そうだろ? これは、サツキ様が育てたハーブで作ったお茶なんだ」
「ハーブ?」
「薬草と言えばいいか」
「は? 薬草の茶がこんなに美味いわけないだろ!?」
ジャロは再び驚きの声をあげる。
「あはは。そうだな。普通の薬草茶は、もっと苦いし、ドロドロしてるもんだが、サツキ様は俺たちに、美味いお茶を教えてくれたんだ」
「……さっきから、エイデンといい、あの女といい、なんで『様』なんてつけてんだ。貴族じゃないんだろ」
「だから、貴族よりも尊いと言ってるだろ」
「まさか、王族!?」
「そんなもんじゃない」
「おいおい、王族をそんなもんって」
「ジャロ、地図に白い部分が出来ているのは把握しているか?」
「なんだ突然。ああ、2年くらい前に……まさか」
ネドリはニヤリと悪い笑みを浮かべる。
「ああ。そうだ。あの土地はサツキ様のもの」
ジャロはゴクリと喉をならす。
「それは、彼女が『神の領域』の持ち主ということか」
ニコリと笑うネドリ。
「じゃ、じゃあ、あのエイデンは」
「古龍様」
「は?」
「古龍様だって」
「はぁぁぁぁぁ!?」
今日二度目の叫び声をあげるジャロであった。





