第874話 ケセラノのギルドマスター
テオとテオパパのガイシャさんをカウンターに残して、私とエイデン、ネドリさんとガズゥが狐獣人のおじさんに案内された部屋に行くことに。
二階の奥のほうにある部屋は思いのほか広くて、大きなソファがローテーブルを挟んで置かれている。私サイズの身体だったら4人くらい座れそう。
「こちらで少しお待ちください」
狐獣人のおじさんはそう言って部屋を出ていく。
「サツキ様、どうぞお座りください」
「え、いや、話があるのはネドリさんでしょ?」
「そうですが」
「私、ガズゥと一緒に後ろで話聞いてるから。ね?」
「じゃあ、椅子を」
「あ、タブレットに入ってるのを出すよ」
私はドワーフのヘンリックさんに作ってもらった折り畳み椅子を二脚、『収納』から出して、私とガズゥが座った。
「別に俺の隣に座っても」
ソファに座ったエイデンが拗ねたように言う。
「いやいや。大男の隣に座るなんて無理」
実際、ネドリさんとエイデンが並んで座ってちょうどいい感じに見えるのだ。エイデンの隣に座ったら、ギュウギュウになる。それに、ガズゥ一人立たせるなんて、かわいそうだ。
私の言葉に、エイデンが唇を尖らせる。
――子供かっ!
さすがに言わないけど、ネドリさんもガズゥも苦笑いしている。
ドンドンドン
部屋のドアを激しく叩く音。
「はい」
ネドリさんの返事とともに、勢いよくドアが開いた。そこには少し年配で大柄な熊獣人が現れた。
私の知っている熊獣人は『焔の剣』のマックスさん。彼も大柄だったけれど、もう少し引き締まっていた。お相撲さんと似たような、ちょっとお腹周りが立派な感じの熊獣人。
そこは現役の冒険者との違いなんだろう。
「ネドリ! ずいぶん早いな!」
「ああ。ジャロ、久しぶり」
ソファから立ち上がり、熊獣人とにこやかに握手を交わすネドリさん。
ネドリさん(190cmくらい)よりも頭一つ分くらい大きい熊獣人に、私も呆気にとられる。たぶん、エイデン(2mくらい)よりも大きいと思う。
「どうした。連絡をくれたのは一昨日だろ。近くにいたのか……おや」
バンバンとネドリさんの肩を叩きながらそう言った後、チラリとエイデンへ目を向ける。
「お前さんは、エイデンだったか」
「……ああ」
ジャロと呼ばれた熊獣人に名前を呼ばれてエイデンは冷めた顔で返事をする。
――相手はここのギルマスでしょうが!
思わずツッコみそうになったけれど、そこは我慢して、後ろからコツリと頭を叩く。エイデンが『何?』という不思議そうな顔で振り向いたので、顎でクイッと『挨拶しろ』とやる。
「はぁ……」
エイデンがため息をついてから立ち上がり、ネドリさんと同じように手を差し出す。
「はっはっは、嫁さんには敵わないってか」
ジャロさんが大きな声で言いながら握手を交わす。エイデンはその言葉が嬉しかったのか、仏頂面から一変、満面の笑みに変わった。
「ちょっと、私は嫁じゃないですから」
変な誤解をされても困るのでそう言うと「おや、失礼」とジャロさんは謝ったけど、エイデンはずっとご機嫌。
ずっと不機嫌でいられるよりはいいかと思い、私はそれ以上は言わなかった。





