第873話 冒険者ギルドの受付にて
エルフのお兄さんは、エイデンを見て固まってしまった。同じように猫獣人の女の子二人と、(たぶん)ライオンの獣人の男の子もびっくりしている。
「そこ、どいてくれるか」
ボドルさんに声をかけられ、ハッとしたのはエルフのお兄さん。
「す、すみません」
お兄さんたちが入口から離れてくれたので、私たちはぞろぞろとギルドの中へと入っていく。
私は一番後ろからついて行こうとして、チラリとエルフのお兄さんに目を向けると、相変わらずエイデンの後姿を見送っている。
――彼にはエイデンがどういうふうに見えてるんだろう?
そんなことが頭をよぎったけれど、皆がさっさと入っていくので私も慌てて中へと入る。
ギルドの中はザワザワしていて、皆の視線はエイデンたちに向けられている。この人たちの中に入るとちびっ子になる私に目を向ける人はいない。
中はもっとごちゃごちゃしているのかなと思っていたけれど、意外に整然としている。
エイデンとネドリさんがカウンターのほうに向かい、受付のお姉さんと話をしている。その後ろにガズゥとテオ、テオパパのガイシャさんが待っている。
――おお~、あれは狸の獣人かな。
彼らの隙間から見えた受付のお姉さん。ぽっちゃりしたおっとりしているような感じのお姉さんが対応してくれているんだけど、周りの他のお姉さんがちょっと怖い顔で睨んでる。
「サツキ様、俺たちちょっと買取の窓口に行ってきます」
ボドルさんがウエストポーチをトントンと叩く。小さいながらもかなりの容量のマジックバッグになっている。これは、ギャジー翁特製なのを私は知っている。
「はいはい。行ってらっしゃい」
『疾風迅雷』の面々が離れたので、私はエイデンたちの後ろからカウンターを覗き込むと、テオが書類に文字を書いているところだった。
「ギルドの登録の書類?」
エイデンに聞くと、ニコッと笑って頷く。
「まぁ、上手にかけたわね」
おっとりお姉さんの声が聞こえて、テオのほうを見ると、頬を染めながら自慢げな顔をしている。ガイシャさんも嬉しそうにテオの頭を撫でている。
「ネドリ様」
いきなり脇から声をかけてきたのは、狐獣人のおじさん。顎のちょび髭が印象的だ。
「ああ、ノックス、久しぶり」
「ご無沙汰しております。ギルマスとのお約束ですよね」
「そうだ」
「こちら全員でしょうか」
おじさんがチラリと私に目を向ける。
今日の格好はキャメル色のダウンコートの下にオフホワイトのフィッシャーマンセーター、そしてジーンズ生地のロングスカート。
冒険者たちがいっぱいの場所では、確かに場違いな感じなのかもしれない、と自分の格好を見て思う。
「五月も一緒でなければ、話にならんぞ」
エイデンがギロリと睨んだせいで、狐獣人のおじさん、顔色が悪くなってしまう。
「え、いや、私がいても」
「サツキ様。ここのギルマスは大丈夫です」
ネドリさんがコクリと頷く。
ケイドンの街で嫌な思いをしているだけに、ギルド関係者とはあんまり関わりたくないなぁ、と思っていたんだけど、ネドリさんが言うなら、と私は狐獣人のおじさんへと目を向ける。
「……畏まりました。今お部屋を用意しますので、少しお待ちを」
狐獣人のおじさんは頭を下げてから、カウンターの中へと入っていった。





