第91話 稲荷の手土産(2)
外に出てみると、すでにホワイトウルフたちはその場にはいなくて、稲荷さんだけが立っていた。
「あれ……あの子たちは?」
「小屋の方に戻っていきましたよ」
のんびり言いながら、上着を脱ぎ始める稲荷さんだったけれど、「はぁ……やっぱり、あの方のせいだったか……」と何やら呟いている。
「あの?」
「あ、いやぁ、どうも吹雪も止んだようで……ちょっと、暑くなった気がしましてね」
そう言われて、空を見上げると、雲間から青空が見え始めた。
「え」
「それで、あの卵なんですけどね」
「あれは何なんです?」
「古龍の卵です」
「コリュウ?」
「あー、エンシェントドラゴン、て言えば通じますかね」
「は?」
この人、ドラゴン、って言いましたか?
ドラゴン? 中華なやつ? それとも西洋なやつ?
あの青い卵が、ドラゴンの卵?
いや、そもそもですね。
「あの、この世界って、ドラゴンなんているんですか」
確かに、フェンリルの血をひくホワイトウルフがいるし、ブラックヴァイパーなんていうでかい蛇もいるから、それっぽい魔物はいるのかな、とは思ってたけど。実際、他の魔物を見ていないし、ホワイトウルフにしてもブラックヴァイパーにしても、大きく想像を超えていないというか。
しかし、ドラゴン、となると話は違ってくる。
「いますよぉ。この山の周辺にはいませんけどね」
「え、今更過ぎる質問ですけど、よくファンタジーな本とかに出てくるゴブリンとかオークとかは」
「いますねぇ。そいつらは深い森に多くいますよ。この山の周辺にはそれほど深い森はありませんけど。まぁ、この辺にもいるかもしれませんが……ここにはホワイトウルフがいるんで、近寄っては来ないでしょうけどね」
な、なるほど。
ビャクヤたちのおかげが、かなり大きいのはわかった。
今度、稲荷さんからもらった猪肉や鹿肉があったら、おすそわけ必須だな。
「まったく、望月さんに渡すのが遅れたからって、こんな天気にすることないのに」
稲荷さんの呟きが聞こえなかったので、思わず「は?」と聞き返す。
「いやね、あの卵、年末に渡されてたんですけど、私も年末は家族水入らずで過ごしてたもんでね。いやぁ、久々にのんびりできましたわ~」
「で、渡されて……忘れてた、と」
「やだなぁ、そんなことあるわけないじゃないですかぁ」
「完全に棒読みなんですけど……ところで、あの卵って、食べていいんですか?」
ダチョウの卵は食べたことはないけど、きっと同じくらいの大きさだし。
「え゛」
「あれ? 食べていいから、渡されたのかと……」
「ドラゴンの卵ってわかってても、食べます?」
「あ……ドラゴンって、爬虫類でしたっけ? 爬虫類のワニの肉は食べるというけど、そういえばワニの卵って食べられるのかな……」
「いやいやいや……問題、そこですか?」
若干、サバイバルじみた生活をしてたから、普通に食べるものと思ってしまった。
自分、ちょっと感覚ずれてきてる?
「そもそも、誰から渡されたんです? そのコリュウの卵」
「古龍からですけど」
「は?」
「望月さんに渡せって言われまして」
「え?」
コリュウってしゃべるの?





