第869話 不安な話と、チョロいエイデン
村人たちが盛り上がっている中、エイデンはどこにいるのかと思えば、ドラゴンから離れた場所でネドリさんと真剣な顔で話をしている。
何かあったのかな、と少し不安になりながら見ていると、私の視線に気が付いたのか、ぱぁっと笑顔になって、こっちに足早に向かってきた。
そんなエイデンを見送るネドリさんは苦笑いしている。
「五月!」
「あ、うん。凄いの狩ってきたね。どこにいたの?」
「おお、前にネドリたちの村があった場所よりも奥のほうの谷で見つけてな」
「えっ、こんな大きいのが!?」
うちに移住してくる前に大量の魔物に襲われたネドリさんたちの村。エイデンが助けに行ってくれた時には、ドラゴンがいたなんて話はなかったと思う。
「元々、こいつは地中深くにいるヤツで、地上に出てくるのは稀なんだがな」
エイデンが親指で指さすドラゴンは、アースドラゴンというやつらしい。よく見てみれば、古龍のエイデンとは違って羽がなかった。
ドラゴンというよりも、恐竜に似ている気がする。私の中で恐竜といえばティラノサウルス。それよりも腕は大きくて太そうだ。
「どこかこいつらの生息地の地底の洞窟が、地上に繋がったのかもしれん」
ちなみに、火山や、大きな湖や海、高い山に棲んでいるドラゴンもいるにはいるそう。ただ、このアースドラゴンほどは大きくはないらしい。
「え、こいつら、って言った?」
「ああ。アースドラゴンは群れて生きるからな。こいつが一匹いるなら、少なくとも他に五、六匹はいてもおかしくない」
エイデンの言い方、まるでGみたいだわ、と一瞬顔が引きつりそうになる。
しかし、こんなデカいのが、まだいるのか、と思ったら、ゾッとする。
「ネドリに、あの辺の地形を確認してみたんだが、ヤツにも記憶がないらしい。獣人たちがここに移住した後に、何かあったのかもしれないが」
「あの辺りって、近くに村ってなかったよね」
「森から少し離れたところにはある」
「大丈夫なの?」
「さぁな。だからさっき、ネドリと話してたんだ」
元Sランク冒険者のネドリさんだったら倒せるのか、と思ったけれど、渋い顔でドラゴンを見ているネドリさんの横顔の様子では、厳しいんじゃないかという気がしてくる。
「で、どうするって?」
「一応、獣王国の冒険者ギルドに連絡をいれるようだ」
ネドリさんですら厳しそうなのに、他の冒険者たちで大丈夫なのだろうか。
「……でも、あんな大きなドラゴンなんて、エイデン以外に倒せるの?」
古龍のエイデンだから狩ってこれたんじゃ、と私は思うのだけれど。
「まぁな! 俺以外じゃ、厳しいかもしれんな!」
鼻高々という感じで胸を張るエイデン。ちょろい、ちょろすぎる。
「万が一の時は、エイデンも手伝ってあげてよね」
「五月が望むなら」
ニッと笑うエイデン。
冗談ではなく、本当に頼むよ、と思った私。
ちなみに、ドラゴンだけに共食いじゃないのか聞いたら、あんなトカゲのデカいヤツと一緒にするな、と怒られた。
……エイデンでもドラゴンをトカゲ扱いするんだ、と、ちょっと笑いそうになった。





