第868話 エイデン、ドラゴンを狩ってくる
離れを手に入れたエイデンは喜びのあまり、「何かかってくる」といって飛び出して行って三日。
彼の「かってくる」は、「買ってくる」じゃなく「狩ってくる」だろうなぁ、と予想はできていたので、そのうち戻ってくるだろうと思っている。
私はチマチマとマリンのセーターを編み物中。これができたら、ノワールのも編む予定だ。その二人は、セバスと一緒に村に遊びに行っている。
一人の静かな時間に黙々と編み針を進めていると。
『サツキ様~!』
『様~!』
外から聞こえてきたのはテオとマルの声。
玄関のドアを開けると、鼻の頭を赤くした二人がニパッと笑って立っていた。
「どうしたの?」
「エイデン様が、でかい魔物を狩ってきたんだ!」
「サツキ様にって」
予想通り狩りに行っていたエイデン。
彼が直接、ここまで運んでこないあたり、かなりの大物なのだろう。
「でかいってどれくらい?」
二人は顔を見合わせて少し考える。
「うちよりも大きい?」
「大きい!」
「二つくらい?」
「ううん」
「三つくらい?」
「うーん」
「……相当大きいことはわかったわ。でも、わざわざ、テオたちを使うなんて」
ハノエさんのところには『すまほ』があるから、それで連絡してくれれば済むはずなのに。
「今、村の皆総出で解体してるんだ」
「お祭り状態」
「ガズゥまでかりだされてる」
「そんなに?!」
「だって、でっかいドラゴンなんだよ!」
「!?」
エイデンがドラゴンを狩ってきた。
古龍が同じような姿のドラゴンを食べている様子が頭に浮かび、それって共食い? とか思ってしまう。
「ドラゴンの肉なんて、滅多に食べられないんだよ!」
「ワイバーンの肉なら、いくらでもダンジョンで獲れるけどね」
「ドラゴンはずっとずーっと深いところだから、なかなか狩れないって」
「それに、やっぱり強いからな」
「でも、ワイバーンなんかよりも美味いんだよ」
「じいちゃんたちも飛び跳ねるくらいなんだ!」
二人が嬉しそうにまくしたてる。
それは相当な美味さなんだろう、とは思うが、共食いが頭から離れない。
「わかった、わかった。すぐにバイクで追いかけるから、二人は先に行ってて」
「早くね!」
「ドラゴン♪ドラゴン♪」
二人はドラゴンの肉が食べられることが嬉しいらしく、猛ダッシュで戻っていった。
私は「フー」と大きく息を吐いて、すぐに村へ向かう準備を始めた。
スーパーカブで村に行ってみると、かすかに賑やかな笑い声が聞こえてきた。
ドラゴンは作物のない空いている北側の畑に置かれているようで、村の中に入った私でも身体の一部が見えた。
くすんだ焦げ茶色の鱗をもったドラゴンのようだ。そのドラゴンの上で誰かが作業をしている。人の大きさを考えると、相当デカい。
私は早歩きで畑に向かうと、血のニオイが漂ってきて顔を顰める。
「ドラゴンの血は貴重なんだ! 零すな!」
「はいっ!」
いつになく真剣なギャジー翁の声と、元気に返事をしているのはモリーナ。
「おい、その鱗も集めとけ!」
ドワーフのヘンリックさんも、仲間のドワーフたちに怒鳴っている。
ドラゴンの周りは他にも獣人たちも集まっていて、なかなかの喧噪ぶりに、唖然としてしまう。
「あ、サツキ様!」
血まみれのガズゥが、ドラゴンの頭の上で手を振っている。周りの獣人たちも血まみれで笑顔だ。
「あ、あははは」
この様子に、私は顔を引きつらせながら手を振り返すのであった。





