第867話 エイデンVSちびっ子二人
ちびっ子たちが嬉しそうに家の中を探検しているので、私は諦めてキッチンに向かう。
新しいキッチンは、やっぱり少し広くなっていて、吊り棚やカウンター下の奥行きも広くなっていて、ちょっとウキウキする。
タブレットの『収納』から取り出した鍋やフライパン、食器や調味料などをしまっていると、玄関を強くノックする音が響いた。
「はーい」
ドアを開けるとエイデンが少し心配そうな顔で立っていた。
「どうしたの?」
「いや、何か凄い音が聞こえてだな」
凄い音、と聞いて一瞬、キョトンとなったけれど、「ああ!」と声をあげる。エイデンがどこで耳にしたのかは気になるところだけれど、心配して飛んできてくれたということだろう。
少しむず痒い気持ちになる。
「ちょっと、家を建て替えて、リフォームしたのよ」
「リフォーム?」
「そう。部屋を広げたりとか、部屋数を増やしたりとかね」
「家が新しくなったような気がしたんだが、そういうことか……もしかして」
私の言葉に目を輝かせるエイデン。
「俺の部屋も!?」
「えっ」
期待しているところ悪いが、彼の部屋はない。すでに、マリンとノワールに新しい部屋は取られている。
「エイデンの部屋はないわ!」
「そうだ! エイデン様のはない!」
私がどう言おうか悩む間もなく、それぞれの部屋から顔を出したマリンとノワールが、大きな声で宣言した。
「なんだと!」
「もう私たちが取っちゃったもーん」
「そうだ、そうだ!」
「ぐぬぬぬぬ」
まだ何もない部屋だけど、もう彼らの部屋になっているようで、自信満々の笑みを浮かべている。一方でエイデンは凄く悔しそうな顔だ。
――でも、エイデンが家にいて夜遅くになった時に、悪いなぁ、とは思ったのよねぇ。
夜空を飛んで行くエイデンの姿が、少し寂しそうだったのだ。
ふと、同じ敷地内に離れがあったのを思い出す。
エイデンに泊っていけば、とは言えなかったのは、ログハウスの敷地まできて泊まるお客さんが少なくて、ほとんど離れを利用してなかったから勧められなかった。
――離れとログハウス、繋げられないかなぁ。
間には畑や鶏小屋があるけれど、それこそ『ヒロゲルクン』で調整できる。
さすがに繋げるのは無理でも、移動はできるはずだ。スープの冷めない距離くらいにはなって、お城に戻るよりはマシになるんじゃなかろうか。
「おい、ちびっ子二人にそれぞれ一部屋は広いだろ。俺によこせ」
「嫌よ!」
「エイデン様はお城に部屋があるじゃん!」
「なんだとー!」
キャンキャン、ギャーギャーと、エイデンVSちびっ子の口喧嘩が続く。
「はいはいはい、うるさいでーす! 静かにしてくださーいっ!」
「くっ」
「やーい、叱られた~」
「エイデン様が悪い~」
「こら、二人とも、煽らない!」
私が注意すると、ペロリと舌を出して、そそくさと部屋へと戻っていくちびっ子二人。エイデンは悔しそうというか、寂しそうというか。
――もう、これはやってあげるしかないよね。
「エイデン、ちょっと、外に行こうか」
「……」
エイデンの背中をポンポンと叩いて外に出ると、彼も素直についてきた。
タブレットを片手に、ログハウスの敷地の端に寄る。
「さてとぉ」
私は離れを『収納』すると、畑と鶏小屋を左端に寄せた。そして真ん中に再び離れを取り出す。
玄関出たら、エイデンの長い足なら三歩で行ける距離くらいにはなった。
「さ、この家の部屋をエイデンが使ってもいいよ」
「……」
エイデンは言葉もなく立っている。
今までだって『ヒロゲルクン』での作業を見てきただろうに、何を呆けているんだろう、と思った瞬間。
「五月! ありがとう!」
「ぐえっ!?」
いきなりエイデンに抱きしめられて、死にそうになった。





