第866話 子供たちとエイデン温泉に行ってみた
エイデンがジェアーノ王国のお酒を持ってきて数日。
ジェアーノ王国のお酒は、案の定、シードルみたいなお酒で、甘くて美味しかった。飲み過ぎないように気を付けないと、あっという間になくなるヤツだ。
もともと、量を飲む方ではないけれど、すでに1本は空になってしまっている。要注意である。
吹雪のせいで積もっていた雪も、すっかり融けている。
山の木々の根本には根雪になっているものもあるけれど、スーパーカブで村とログハウスを往復するには問題ない程度だ。
そして今日、久しぶりにスーパーカブで立ち枯れの拠点のほうへと向かった私。マリンとノワールは泥を跳ねることもなく並走している。走っているというよりも、飛んでいる感じだろうか(遠い目)。
「こんにちは!」
立ち枯れの拠点の畑で、大根や白菜、ほうれん草を収穫していた孤児院の子供たちが元気に挨拶をしてくれた。
今日は年少組の中でもルルーやエリーなどのお姉さんたちはいないようで、ちびっ子たちが収穫に来ているようだ。
「こんにちは~。お、立派なのができてるね!」
「はいっ!」
寒い中、顔に泥をつけて返事を返してくれたのは、植物大好きのカロルちゃん。孤児院の中でも大人しくて、あまり目立たない女の子だけれど、畑仕事が好きなようで、獣人のおばさんたちに可愛がられている。
彼女の返事につられるように、他の子供たちも手にした野菜を見せてくれるが、皆、見事に泥だらけだ。
――これは、早いところお風呂にでも入れないと。
ちょうどエルフの里から温泉宿に避難してきているレィティアさんとディアナさんの二人のことが気になっていた。
そのこともあって、私は子供たち(マリンとノワールも含む)を誘って稲荷さんの温泉宿に向かうことにした。
「ようこそおいでくださいました!」
稲荷さんの眷属の女将さんは、満面の笑み。その場にはレィティアさんとディアナさんの姿はない。
「あれ?」
「どうかしましたか?」
女将さんがコテリと首を傾げる。
「いや、あのレィティアさんたちは?」
「あ、ああ……」
女将さんは困った顔になる。
「実は……」
女将さんが話してくれたことには、驚いたことに、レィティアさんとディアナさんは、稲荷さんの眷属たちと一緒に着物を着て、接客をしはじめたらしい。
『何もせずに、ここにいるわけにもいかない』
ということらしかったのだけれど、彼女たちがいることを知らずに温泉宿のほうに行ったうちの村人たちが、二人が接客に出てきたことで恐縮しまくったらしい。
――そりゃぁ、稲荷さんの奥さんと娘さんだもんなぁ。
戻った村人たちから聞いた人たちは、みんな恐れ多いと言って、うちの村用の普通の温泉にしか行かなくなったらしい。
今ではレィティアさんとディアナさんは裏方に回って、眷属たちと仕事をしているらしい。
「ですから、五月様がいらしてくれて、本当に嬉しいんですのよ?」
「あ、はい」
他の眷属の仲居さんたちも嬉しそうで、子供たちをさっそく温泉のほうに誘っている。
――後で、村のほうにも話しておこうかな。
私は笑みを張り付けながら、女将さんの後をついて部屋のほうへと向かった。





