第864話 精霊王たちのいる場所
エルフの里で見た時の精霊王様たちの姿は、神様モードの稲荷さんと同じくらい大きかったけど、今、目にしている姿はエイデンくらいの身長。人としては大柄なタイプという程度。それでも、そんな二人が我が家のリビングにいたら、なかなか圧迫感がある。
その精霊王様たちが、なんでうちの山に来たのか。
どうも土の精霊王様が原因らしい。
『土のが居場所を移してたとは聞いてなかったのでなぁ。まぁ、試しにどんなとこかと来てみたんだ』
バリボリと音をたてながら、稲荷さん特製煎餅を食べる火の精霊王様。
『我々は基本、滅多にお互いに関わることはなかったからねぇ』
淹れたてのお茶を、冷ますことなくズズーッと飲む水の精霊王様。火傷しないか心配になったが、関係なかったようだ。
『今回、イグノス様に呼ばれて久々に会ってみれば、土のが神の愛し子のところの山にいるというじゃないか』
「いや、正確にはドワーフたちのところですけどね」
『何を言うか。愛し子の土地だからこそ、ドワーフたちも住み、精霊たちも居心地良さそうにしているのではないか』
『……まぁ、アレは酒の力もあるだろうけどねぇ』
澄ました顔でツッコみを入れる水の精霊王様。
『ハッハッハ! まぁ、確かにあの酒は美味い!』
『時々、飲みに来たいくらいではあるね』
土の精霊王様とは、まったくと言っていいほど話さないから、おしゃべりな二人に圧倒される。
普段は皆さんはどこにいるのか聞いてみれば、あまり定まった場所にはいないらしい。
ただ気に入っている場所であれば、ということで教えてくれたのは、火の精霊王様は北の海の底にある海底火山、水の精霊王様は南の海の上、風の精霊王様は、なんと私の山のすぐそば、この大陸の中央にある一番高い山の上あたりによくいるのだとか。
『そうは言っても、風のはエルフたちを気に入っていたからな。昔はエルフの里にもよく行っていたはずなんだが』
『お気に入りのエルフに声が届かなくなったあたりから、足が遠のいていたらしいよ』
お気に入りというのは元次期里長のことだろう。だからこそ、あんなに残念そうな顔をしてたのか、と、風の精霊王様を少しだけ気の毒に思う。
『我々の元にまで伝えにこられる者がおらなんだのが、悔やまれる』
バリボリ煎餅を食べている姿で言われても、本当に悔やんでいるようには見えない。
『それにしても、美味いなこの「せんべい」』
「稲荷さん特製ですからね」
『ぶっ!?』
火の精霊王様が食べている途中の煎餅を吹き出した。
「ちょっ、汚いじゃないですかっ」
『い、稲荷様特製だとっ!?』
『……そりゃぁ、美味いよねぇ。火の、随分食べてたようだけど』
水の精霊王様が呆れたように言う。
『もっと、味わって食べたほうがよかったんじゃない?』
『ぐぅっ!』
――私も、けっこうバリバリ食べてるけど。
あえて言わないほうがいいかもしれない、と私は声に出さずにティッシュペーパーでテーブルの上の煎餅のカスを拭き取ったのであった。





