第863話 吹雪の日のログハウス
エルフの里のごたごたがあって、しばらく経った。
すでに正月気分でもなく、たまに餅を食べるくらいで、普段の生活と変わらなくなっている。気が付けば、すでに餅の在庫は少なかったりする。
どんだけ食べたんだよ、と言いたいくらい。
ノワールは体中に小さな精霊たちを纏わせながら飛んだせいか、彼にしては気を使ったようで、三日という少しのんびりペースで飛んで帰ってきた。
ノワール曰く、本気で飛べば、一日もかからないと豪語していたけど。
小さな精霊たちが青い空から落ちてくる様子は、なかなか見事だった。村でこれを見ることができた人は、そう多くはないだろう。
小さな光の玉の精霊たちは、私の山のあちこちに落ちていったけれど、無事に大きく育ってくれればいい。
レィティアさんたちはどうなったかといえば、エルフの里を出て温泉宿に移り住んだらしい。
ノワールに焼かれるまでは緑の多かったエルフの里と違い、荒地が多い場所だけれど、元々温泉宿は好きでしょっちゅう来ていたらしいので、特に問題はないそうだ。
元々、稲荷さんの眷属たちがいる場所だし、彼らならレィティアさんたちを色んな意味で守ってくれるだろうとは思う。
うちの村に避難する? と聞いてもよかったのだけれど、エルフの里から来た精霊たちのこともあるので、聞くに聞けない感じになっている。
ちなみに、エルフの里での顛末について、ギャジー翁たちエルフ組に話はしたが、ギャジー翁とモリーナさんは残念そうな顔、アビーさんは当然だろうという顔をしていた。エルフによっても感じ方、考え方は違うらしい。
今日は朝から吹雪いているようで、窓から見える木々は真っ白な状態で風に揺られている。
ログハウスの敷地の中は強固な結界の中だから、チラチラと雪が舞っている程度だけれど、それがなかったら確実に雪に埋もれていただろう。
『サツキ、これはもうないのか』
そう言って手にしている煎餅を振っているのは、火の精霊王様。
「あ、はいはい。ちょっと待ってくださいね」
私は急いでタブレットの『収納』を確認して、稲荷さん特製煎餅を取り出す。
今、我が家のリビングには、なぜか火の精霊王様と水の精霊王様がいらっしゃっている。
『私は茶をお願いしたい』
「はいはい、待ってくださいねぇ」
小さな精霊たちが落ち着いた頃に、なぜか四人の精霊王様たちがやってきた。
それに気付いたのは、ギャジー翁のエルフ組と、精霊たちの言葉が聞こえるドワーフのドレイク。特にドレイクはパニくって白目を向いて倒れたらしい。
土の精霊王様の時だって、アワアワしてたのだ。それがプラス三人ともなれば、ぶっ倒れるのも仕方がないだろう。
土の精霊王様は何も言わずに、居ついているドワーフのワイン倉庫へと向かい、風の精霊王様は、小さな精霊たちを心配してなのか、山を見に行ってしまったそうだ。
そして火の精霊王様はドワーフたちの炉を見に、水の精霊王様はユグドラシルの足元の池へと向かったはずだったのだが。
なぜか今、火と水の精霊王様が我が家へとやってきているのだ。
『うん、旨いな。この「せんべい」というヤツは』
『この茶も美味い』
「あはははは」
――なんだって、うちなのよっ!
心の中で叫びながら、私は苦笑いを浮かべ、彼らの言葉を聞き流す。
そう思うのはマリンもノワール、セバスも同様のようで、部屋の隅に固まって、ジト目で彼らを見ている。





