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山、買いました ~異世界暮らしも悪くない~  作者: 実川えむ
楽しい冬ごもり
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第853話 稲荷さん家訪問(2)

 キャンプ場でいつも見るようなカジュアルな格好の稲荷さんの登場に、少しホッとする。


「朝早くからすみません」

「いえいえ、こちらが早めにと言ったんですから。そうだ、朝食は済んでますか?」

「あ、はい。軽めにですが」

「そうですか。では、そのまま出かけても……」

「父様! 何言ってるの!」


 稲荷さんの背後で声をあげたのは、稲荷さんの娘のディアナさんだ。稲荷さんと違って、エルフ族の衣装なのか、クリーム色の生地に細かい刺繍を施されたほっそりしたドレスを着ている。


 ――私には着られないわ。


 ちょっと羨ましいと思っていると。


「五月様、おはようございますっ!」


 するりと稲荷さんの脇を抜けて、輝くような笑顔で挨拶をしてきた。


 ――ま、眩しいっ!


 モリーナやアビーでエルフは見慣れてるはずなんだけれど、また一際輝かしいのは、神様の血筋だからだろうか。


「あら、この子供たちは?」

「私、マリン」

「俺、ノワール」


 マリンたちが元気に手をあげ、挨拶をする。

 そういえば、ディアナさんはこの子たちが人化している姿を初めて見るのか。


「すみません、稲荷さん。二人がどうしてもついてくると言って聞かなくて」

「あー、うん。お前たちは、あちら(日本)には行けないんだが」

「わかってるわ! だから、ここでお留守番させて!」

「五月が帰ってくるまで、待ってる」


 マリンのおねだりと、ノワールの梃子でも動かないぞ、というしかめっ面に、稲荷さんも渋々ながら許してくれた。

 キャッキャッとディアナさんと戯れているちびっ子二人。その間に稲荷さんから、大地くんも一緒に出ると言われた。

 高校の冬休みの間、こちら(異世界)に戻ってきてはいたものの、エルフの里の魔道具職人たちに捕まり、年末年始は稲荷さんのお手伝いをさせられ、手伝いが済んだら、再び魔道具職人に拉致られと、大忙しだった模様。おかげで、うちの村までは来れなかったらしい。

 そのせいもあって、こちら(異世界)にいる間、ずっと不機嫌だったそうだ。

 餅つき大会にも姿を見せなかったのは、そういうことか、と合点がいった。


「まぁまぁまぁ! 戻ってこないと思ったら、こんなところにいたの?」


 今度は稲荷さんの奥さん、レィティアさんが現れた。

 久しぶりに会ったけれど、相変わらず美しい。この輝かしい美しさは、神とか関係なかった。さすが稲荷さん(神様)が妻にするだけのことはある。

 ご無沙汰してます、と挨拶を交わしていると、レィティアさんが稲荷さんにジトッとした目を向ける。


「せっかく五月様がいらしたのに、お茶の一つも出さずにお出かけになるの?」

「んぐっ」

「私もディアナも、餅つきには行くのは我慢したのよ?」


 どうも稲荷さんからストップがかかっていたらしい。

 稲荷さんはため息をついて「少しお茶でも飲んでからにしますか」と、部屋を出ることになった。ここは地下室だったようで、階段を上ったところに玄関があった。

 エルフ特有の家は大きな木を柱に部屋が連なっているそうで、上のほうにプライベートな部屋があるらしい。

 案内された部屋は玄関近くの応接間。朝から階段を上らずに済んでホッとする。


アース(大地)を呼んでくるわ」


 ディアナさんは部屋に入らずに階段を駆け上がっていってしまった。

 私たちが応接間のソファに座ると、向かい側に稲荷さんとレィティアさんが座ると、コンコンというドアをノックする音がした。


「どうぞ」

「失礼します」


 レィティアさんが返事をするとドアが開き、知らないエルフの女性が現れた。レィティアさんたちのようなドレスではなく、グレーのメイド服を着ている。見るからに、ザ・メイド、だ。


「お茶を持ってまいりました」

「ありがとう」


 出されたのは、どう見ても日本の湯呑に緑茶。


「え?」


 思わず、メイドさんと湯呑、レィティアさんと湯呑、メイドさんと稲荷さんを見比べてしまう。

 稲荷さんは相変わらず渋い顔だ。


「うちじゃ、お客様には、稲荷があちら(日本)で頂いてくる緑茶をお出ししてますのよ」

「そ、そうなんですか」


 嬉しそうな顔のレィティアさん。


 ――それは、ただのお茶じゃないんだろうなぁ。

  

 私はありがたく思いつつ湯呑に手を伸ばしながら、遠い目になった。

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