第852話 稲荷さん家訪問
餅つき大会は色々あったものの、大盛況で終わった。
村人たちも餅への興味が稲作への意欲へとつながったようで、今年の田んぼの作業は村人総出でやることになりそうだ。
そしてその翌日、まだ外は暗い中、私はスーパーカブに乗って立ち枯れの拠点へと向かっている。私の背中には眠そうなノワールとマリンが張り付いている。
五時前に起きだした私。それなのに、すぐにノワールとマリンも起きてきた。
軽めの朝食をとり、身支度をしている間ずっと、二人ともどうしてもついていくと言って聞かないので、稲荷さん家【ち】で待ってられるなら、と、連れていくことになった。
セバスはログハウスのリビングで寝ていたので放っておいた。
――稲荷さん家【ち】って、エルフの家なんだよね。
単純にあちら【日本】の神様のイメージで、和室な感じを想像しそうだけど、そもそも奥さんはこちら【異世界】のエルフ。当然、エルフの住居になるんだろうけれど、そもそもエルフの住居というのを見たことがない。
自然あふれる感じなのかなと、想像してワクワクする。
まだ日が昇っていないので、立ち枯れの拠点は薄暗いし、人の姿もない。
スーパーカブをタブレットの『収納』にしまうと、転移用の小屋に入ってエイデン温泉に向かう。
稲荷さんの温泉宿に行くと、すでに眷属たちは働き始めていたようで。
「いらっしゃいませ~」
「いらっしゃいませ~」
あちこちから声をかけられる。
「おはようございます。望月様」
「お邪魔します」
女将さんに挨拶をすると、すぐに奥の部屋へと案内される。通された部屋は、この宿屋には珍しい洋間。低いテーブルにソファが置かれていて、普通に客間として使っていそうだ。
マリンとノワールも興味津々で周囲を見ている。
「あちらのドアを開けていただければ、稲荷様のお屋敷に繋がっておりますので」
女将さんが指すのは、隣の部屋に繋がってるのか、と思うような木製のドアの扉。
「朝早いですけど、お邪魔しても大丈夫ですかね?」
ログハウスからの移動時間を考えても、まだ七時前。そんな時間にお邪魔してもと不安だったのだ。
「ホホホ、稲荷様でしたら、この時間でしたらもう動き出してらっしゃいますよ」
「そ、そうなんですね」
私はドアのノブを握ると、ガチャリと音をたてて、ドアを開けた。
「お邪魔しま~す……え?」
ドアの向こう側は、何もない薄暗い部屋。広さは六畳くらいだろうか。あまりにも殺風景な様子に、立ち止まる私。
「何、どうしたの?」
「早く入ってよ」
「え、ええ?」
ノワールたちに押されて中に入ったとたん、部屋が明るくなった。
明るくなってわかったのは、壁は薄いグリーンなのと、天井がかなり高いようで、上のほうに大きな照明があるようだ。
しかし、外に出るためのドアがない。
「え、これってどうやって出るの?」
私が困惑していると、右手の壁に突然ドアが現れた。
「えっ?!」
「あ、やっぱり望月様でしたか」
稲荷さんが、いつもの胡散臭い笑顔で現れた。