第848話 元日の訪問者
ドンドンドン
新年早々、玄関のドアが勢いよくノックされる。
――まだ、早くない?
ベッドからのそりと身体を起こす私。
ボーっとしながら窓のほうへ視線を向けると、カーテンの隙間からは、薄っすら光が入りこんでいるのが見える。慌てて時計を見ると、八時近くになっていた。
昨夜はなぜか深夜までエイデンと一緒にお酒を飲み、気が付いたらベッドの中にいる自分に驚く。着替えもせずに寝てしまったようだ。
――え、エイデンはどうした?
私は慌てて、階段を駆け下りる。リビングでは、ちびっ子たちがセバスを枕に固まって寝ていた。ちゃんと毛布も掛かっている様子にホッとする。
暖炉の火は熾火のようになっていたようで、それほど寒くはなっていない。火の精霊たちが、親指をグッと立てて自慢げにいるので、彼らがなんとかしてくれたと思われる。
思わず苦笑いを浮かべていると、再び、ドンドンドンという玄関を叩く音。
「はいはいはい」
部屋の中にエイデンの姿がないのを心配しながら、玄関を開けると。
「あけましておめでとう!」
……エイデンが満面の笑顔で立っていた。
それも、クリスマスプレゼントに渡した、フライトキャップに青地のネルシャツとグレーのセーターの一式を着て。ものすごっく、満足そう。
「え?」
「あ? あれ、ガンジツは、そう挨拶をするのだろう?」
コテリと首をかしげるエイデン。
「いや、あ、うん。そう。あけましておめでとう」
「うむ」
嬉しそうなエイデンに、私は呆気にとられる。
「あ、えーと、エイデン、昨夜は」
「ちゃんと城に帰ったぞ? 五月が寝てしまったのでな。ノワールたちに帰れ、と追い出されてしまった」
「あー、そうなんだ」
中々にジェントルなエイデン。
それでも深夜に追い返すのはいかがなものか、と思うものの、エイデンだし、ひとっとびで城には帰れるし、とも思ったけれど、ちょっと申し訳ない気もしてくる。
今のログハウスには客間らしいものはない。敷地内に別邸があるからだ。
またこんなことがないともいえない。ちゃんとリフォームしたほうがいいかな、とチラリと思う。
「まだ、何も用意してないんだけど、それでもよければ」
「構わない。中で待っていてもいいのか?」
「はい、どうぞ」
私がドアを大きく開けて、エイデンを中に誘っていると、のそのそと白い集団が登場。
「あんたたち、どうしたの?」
ユキ、スノー、ハク、それにウノハナたち三つ子までがやってきた。
『えっと』
『ほら、いいなよ』
『おすなよ』
『あー、五月、あのね』
「あ、もしかして」
私の言葉に、皆が皆、目をキラキラさせる。
「お年玉ね?」
『そう!』
『おとしだま!』
白い尻尾があちこちでブンブン振りまくっている。すっかり巨大な身体になってしまっている彼らなのに、すごく可愛い。
――『収納』に贈答用のハム、入ってたはず。
「ちょっと待っててね」
『まつ!』
『まつ!』
『いつまでも、まってる~!』
賑やかな遠吠えが、山に響いた。