第847話 眷属たちの望み
テオが餅をついたら終わりかと思ったら、そんな訳もなく。
「ほいせ、ほいせ、ほいせ、ほいせ」
「はい、はい、はい、はい」
今度はマルが、次はガズゥが、となって、餅をつくだけではなく、水をつけるのもやりたいと、まぁ、色々やらせてもらった。ちびっ子たちが。(遠い目)
当然、その流れでエイデンもやりたいと言いだした時には、さすがの稲荷さんも笑ってない目で止めていた。
そんなに大量の餅をついてどうするんだ、と思いきや、のし餅にして稲荷さんの眷属たちが食べるらしい。どれだけの数の眷属がいるんだろうか。
「……むらでもやりたいなぁ」
マルが呟く。ちびっ子たちがそう思うのは予想の範囲内。
皆で餅つきをするのは確かに盛り上がるし、特に脳筋の多い獣人たちには、祭りのような感じになるだろう。
今年最後の買い出しでもち米をもっと買っておけばよかったか、とか思いだす。今から、臼や杵も用意はできるのか?
「だったら、うちの者たちを出張させますか」
「えっ?」
稲荷さんがニヤリと胡散臭い笑みを浮かべる。
「いや、何、この温泉に勤めている者たちが、前から望月様の村に興味を持っておりましてねぇ」
「えぇぇっ?」
思わず、周囲を見回すと、その場にいた眷属の皆さんが、うんうんと頷いている。
「ついでに、餅の作り方を伝授させますよ」
「マジですか」
村でも餅が用意できるようになるなら、それはそれでありがたい。これは、来年はもち米も育てないといけないかもしれない。
「あ、その出張費とかは」
思わず現金なことを考える私。村に来るだけでいいとは思えない。
「そうですねぇ……」
うーん、と考える稲荷さん。
「あの」
そんな中、眷属のお姉さんの一人が手を上げる。
「なんでしょ?」
「えと、こちらで作られているお米をいただけませんでしょうか」
「うちの米、ですか?」
今年、初めて大きな田んぼで育てた米。ほとんどがすでに村人たちのお腹の中に収まっている。村人たちの食欲、侮ってはいけない。
村の倉庫に残っているのは、あまり多くはないはず。それを伝えると、来年の米でいいという。なんでかと思ったら、うちの米で日本酒を作ってみたいという。
――ここでも酒かよっ!
内心、ツッコんだ私は、悪くないと思う。
「え、いつくるの?」
「あした?」
「あさって?」
ちびっ子たちが稲荷さんにへばりつきながら、聞きまくる。
「あー、いや、そうですね。正月三が日が終わったあたりでどうでしょう」
「さんがにち?」
ちびっ子たちはお年玉の貰える『正月』は覚えていても、『三が日』は知らないから、首を傾げている。
「いやぁ、大晦日から三が日まで、うちの者たちは大忙しなんですよ」
なんでなのか聞いてみれば、大晦日は各地の神様のところへ年越しそばの配達、三が日は同じく各地に餅つきに呼ばれているのだとか。
「うちの者たちがつく餅は格別ですから」
――神様たちが食べる餅、食ってたのかっ!
ぎょっとして、眷属の女性たちが成形している餅に目を向ける私であった。
* * * * *
「なぁ、稲荷」
「なんです」
「俺も餅つきしたいんだが」
「はぁ……貴方の力で壊れない臼なんてありませんよ」
「アダマンタイトで作ったら……」
「……ノッてきたら、力の加減、できなくなるでしょうに」
「ぐぅ」
稲荷にやりこめられるエイデンであった。





