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山、買いました ~異世界暮らしも悪くない~  作者: 実川えむ
楽しい冬ごもり

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第846話 テオ、餅をつく

 ひんやりとした板張りの廊下を音もなく歩いて行く女将さんの後をついて行く。私たちはミシミシいわせてるけど。

 大きな温泉宿の中は迷路みたいで、興味津々。たまに温泉に入ったり、食事をしにきたりはあったけど、こんな風に建物の中を歩き回ったことがなかった。

 建物の見かけ以上に広くて、稲荷さんの本気度がうかがえる。女将さんを見失ったら戻れそうもない。ガズゥたちがいれば、なんとかなるか。


「ほいせ、ほいせ、ほいせ、ほいせ」

「はい、はい、はい、はい」


 威勢のいい掛け声と、ペタン、ストン、ペタン、ストンというテンポのいい音が聞こえてくる。

 到着したのは、広い土間。大きな石臼を中心に、眷属たちが餅つきをしていた。

 白い膝丈くらいの股引? に上半身裸で餅をついている稲荷さんの男性の眷属たちと、出来上がった餅を成形している仲居姿の女性の眷属たちで、賑やかだ。

 もち米を蒸しているのもあってか、広い土間なのにむわっとした熱気がある。


「ほいせ、ほいせ、ほいせ、ほいせ」

「はい、はい、はい、はい」


 映像では見たことのある餅つきを、目の前で見ている私。あんなスピードで打って、よく手が潰れないものだ、と感心しきり。


「ほいせ」

「はい」

「よーし、できたぞ」

「あいよっ」


 熱々の餅を受け取り、わきゃわきゃしている女性たち。楽しそうな雰囲気に触発されたのは、ちびっ子たち。


「ねぇねぇ、おれもやりたい」


 最初に言いだしたのはテオだ。さすがにあの大きな杵を持つのは、ガズゥだったら余裕だろうけどテオとマルはなぁと思ったけれど、獣人なら無理ではないかもしれない。

 期待の眼差しを向けられ、そっと視線を外した先には稲荷さん。


「いいですよ。おい、お前たち」

「へいっ」


 稲荷さんが声をかけると、サササーッと石臼の周りの人が離れる。


「ぼっちゃんたち、持てるかね」


 杵を持った角刈りのおじさんがテオに声をかけると、テオは嬉しそうに駆け寄る。


「へぇ、おもったよりはおもい」

「おもいの?」

「まぁ、だいじょぶだろ」


 そう言って、ブンブン杵を振り回し始める【・・・・】。それも右手一本で!


 ――やめてー!


 何かの拍子に杵がすっぽ抜けて放り投げちゃうんじゃないかと思って、まさに『ムンクの叫び』のような顔になる。


「こら、危ないだろう」

「はーい」


 エイデンにしかられて、テオは素直に止めた。


「はいよ、熱いから気をつけな」


 おばさんの気合の入った声と同時に、ドンっと石臼の中に炊きたてのもち米が放り込まれた。


「よーし」


 ストン


「はいっ」


 ストン


「はいっ」


 眷属のおじさんたちのようなテンポの良さはないものの、テオが楽しそうに餅つきをし始めた。

 テオがつくたびに、周りの眷属たちが「ほいせ」「ほいせ」と掛け声をあげるから、テオも嬉しそうに「ほいせ、ほいせ」と言いだす。

 いつまでテオがやるんだろう、と心配になるくらい続けていたら、すっかりもち米が餅に変わってた。

 テオは余裕の表情。得意げですらある。

 さすが、獣人である。


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