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山、買いました ~異世界暮らしも悪くない~  作者: 実川えむ
楽しい冬ごもり

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第845話 餅、餅、餅

 目の前でマリンが箸を使って、餅を食べている。思い切りのびていく餅には、たっぷりの粒あん。もにゅもにゅと食べる口元にはあんこがつきまくっている。

 大きな一枚板の座卓に、たくさんの餅が小皿にのって置かれている。

 

「のびる~」

「たべられない~」


 箸でつまんだ餅が伸びすぎて、立ち上がっているのはテオとマル。ガズゥとノワールはきな粉餅を口にしながら、箸で伸ばしている。当然、口元は粉だらけ。

 それでも皆、器用に箸を使って食べている。


「はぁ、つきたてのお餅って、美味しいですねぇ」

「裏では、眷属たちが張り切ってますよ」


 あんこたっぷりの餅を箸でつまみながら、思わず、しみじみ言う私。稲荷さんは海苔で巻いた醤油味の磯部餅を食べている。

 稲荷さん曰く、眷属たちは餅が好きなようで、自分たちが食べるだけではなく、人に振舞えるのが嬉しいらしい。

 私が食べたことがあるのはほとんどは市販の餅(四角かったり丸かったり)。こんな柔らかい餅は、食べたことはない。

 そういえば、祖父母のところにお世話になっていた時に、近所の方からまだ切っていない板みたいな餅をもらって、四角く切るのを手伝ったことがあった。凄く粉がついていたのを覚えている。

 餅を箸でつまみながら当時を思い出していると、稲荷さんの眷属たちが、まるでわんこそばのように餅を運んでくる。


「クルミのたれと、大根おろし持ってきたよぉ」


 稲荷さんの眷属の女将さんが、仲居さんたちと一緒に大きなお盆を手にやってきた。


「え、こんなに食べられませんって」

「ん? エイデン様もいるから大丈夫でしょ?」

「えっ?」


 女将さんに言われて座卓の端のほうで、きな粉餅を食べているエイデン発見。きな粉餅に舌鼓を打っているようだ。


 ――いつの間に。


 食べることに夢中で私の視線にも気付いていないようなので、放っておくことにする。


「納豆餅もお出しできますけど、どうします?」


 空いたお皿を下げながら、女将さんが聞いてきた。私個人としては、食べたいところだけど、獣人のガズゥたちは納豆の匂いがあまり好きではない。好みは人それぞれなので、残念だけど、諦めた。そもそも、すでに満腹状態でもあったのだ。


「お腹いっぱいです」

「そうですか」


 ニコリと笑みを浮かべる女将さん。細い目が、もっと細くなる。まさに狐顔だ。


 ――これだけ食べたら、夕飯もいらないんじゃない?


 ちびっ子たちは満腹らしく、口元を汚したまま畳の上に寝転がっている。今も食べているのはエイデンとガズゥくらいだ。


「ごちそうさまです」


 エイデンのところに追加のお餅を持ってきた女将さんに声をかける。


「お粗末様でした。まだお餅があるんで、よかったらのし餅にして持ち帰られますか?」

「のし餅?」

「はい。四角い板状にした餅です」


 そう言われて、祖父母のところで食べた餅のことかと、合点がいった。

 私はありがたく頂くことにして、ついでに裏手でどんな感じになっているのか、見せてもらいに行く。それに気付いた、エイデン(完食済)やちびっ子たちもついてきた。

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