第843話 稲荷さん来訪
先代フェンリルとジーンが戻ってくれたおかげで、村ではようやくクリスマスモード。
クリスマスプレゼントの指無し手袋を子供たちは喜んでくれて、それを見たママ軍団は自分たちも作ると張り切っていた。
お返しにもらった子供たちの手紙を見て、今更ながらに本気で文字を覚えようと思った。
ママ軍団からもらった革製のリュックや、革で作った太めのブレスレット、革のベスト。ドワーフたちからは包丁一式と赤ワインを貰ってしまった。
他にも村人たちから頂き物をしてしまい、皆の分のお返しがない、と思って焦ったら、いつも頂いてばかりなので、と言われたので、素直に受け取ることにした。
その上、いつかこれを着て一緒にダンジョンに行きましょう、とママ軍団からは誘われ、顔が引きつってしまった。
ガズゥたちの無事の帰還もあいまって、村はお祭り騒ぎ。美味しい料理を食べて大盛り上がり。当然、私のケーキも完売した。
そんな賑やかなクリスマスが終わって、少しばかり気が抜けた私。
昼ごはんの後ということもあって、ぼーっとしながら暖炉の前でお茶を飲んでいる。それはノワールとマリンも同じのようで、彼らはくーくーと可愛らしい寝息をたててお昼寝中だ。
そんなのほほんとした空気の中、玄関のドアをコンコンとノックする音。
『望月様~、いらっしゃいますか~』
のんびりした稲荷さんの声が聞こえてきた。
「え? あ、はい!」
慌てて玄関のドアを開ける。
「どうも、どうも」
厚着姿でぺこりと頭を下げている稲荷さん。吐く息が白い。
「どうしたんですか?」
「いやぁ、実は先日、うちの眷属がキャンプ場の管理小屋のポストに気が付きまして」
スッと差し出したのは免許更新ハガキ。
「ああっ!」
「私も先日お伝えしていたのに、すっかり忘れてました。すみません」
私はハガキを受け取って、サッと内容を確認する。
――やばいやばい。忘れてたよ。
一月になると、三十一歳になる私。気持ちは、まだまだ二十代半ばだ。
自分の年齢をまったく意識せずに済んでいるのは、ホワイトウルフたちや精霊、村人たちのおかげか、それともこちらの食事や環境か。
「とりあえず、年末年始は免許センターもやっていないでしょうから、お正月が終わってからいかれたらどうですか」
「そうですね……更新期間って誕生日前後一カ月でしたっけ?」
「確か、そうだったかと。あちらに更新に行かれる時は、温泉経由で、うちから行きましょう。眷属に声をかけてくだされば、いつでもお送りしますから」
にんまりと笑う稲荷さん。いつも通りの胡散臭さだ。
「は、はい。その時はお願いします」
「そうそう、お餅はどうしますか」
「あっ!」
「もち?」
「もちっ!」
先ほどまで寝てたはずのノワールとマリン。今までの稲荷さんの声には起きもしなかった彼らが、寝ぼけながらも、『餅』に反応して声をあげて起き上がった。
……どんだけ、食い意地はっているんだろう。





