第839話 村にやってきた者たち
――こりゃぁ、モテるわけだ。
スーパーカブの前を走っているガズゥの後ろ姿を見ながら思う。
スラリとした長い足に、キラキラと輝く銀色の髪。テオやマルたちに向ける笑顔の、なんと神々しいことか。
ネドリさんも最近まで、獣王国の末姫に粘着されるくらいのイケメンだし、ハノエさんも迫力美人。美青年になるのも当然だ。
精霊たちが白狼族の村でガズゥがモテモテで大変だったというのも頷けるというものだ。
それにしても、半年ほどの間に、ここまで成長するとは。
一緒に走っている、まだ幼いテオとマルとの違いに、やはりネドリさんの白狼族の血筋なのだろう。
「くそー、ガズゥのよゆうがムカつく~」
「くそー」
「あはは」
それでも三人の仲の良さは変わらないようで、こっちも微笑ましい気持ちになる。
「ふふーん、俺も余裕だもんねー」
「私だって~」
「よーし、本気だすぞー!」
ノワールとマリンは三人の前を、スキップしながら、走ってる?
スキップなのに、一飛びの距離がおかしいのは、ノワールとマリンだからだろう(遠い目)。
――子供って、柔軟だよねぇ。
人化している二人を見て、ガズゥもさすがに驚いたけれど、すぐに慣れて、この状態だ。
村に到着してみると、てっきりお祭りモードになっているのかと思いきや、村人たちは困った顔で集まっている。
その中には、ネドリさんとハノエさんもいて、私の顔を見てホッとした様子になる。
――なんか、面倒ごとの予感。
「お帰りなさい、ネドリさん」
「はっ。なんとか戻ってこられました」
苦笑いをしているネドリさんの腕の中には、うわうわ騒ぐ生後半年のゲッシュが抱かれている。
「で、どうなってるの?」
「いやぁ……実は、白狼族の里のフェンリル様がついてきてしまったようで」
「あー」
渋い顔で言うネドリさんに、私も思わず声が出る。
この前、精霊たちが言ってた先代のフェンリルのことだろう。
ガズゥたちと一緒に行ったはずのビャクヤたちが姿を見せない時点で、何かあったのでは、と思うべきだったかもしれない。
騒がしいのは村の正門のあたり。
悪意のある者はここまでは来れないから、悪い者ではないんだろうけど。
『だから、なぜ、私が入れないというのだっ!』
門を開ける前に、大きな男の声が聞こえてきた。これが先代のフェンリルの声だろうか。村人たちもフェンリルの言葉が聞き取れたのか、かなりの剣幕にギョッとしている。
「そうよ、そうよ!」
その男の声の後に、甲高い子供の声が重なるように聞こえてきた。
「え、フェンリルだけじゃないの?」
「……あの声は」
うんざりしたような顔になったのはガズゥ。
ネドリさんも、あちゃ~、という感じで、右手で両目を押さえている。
「どういうこと?」
「ちょっと待ってくださいね」
ガズゥが、はぁ、と大きくため息をついた後、門を開けて外に出る。
『おお! ガズゥではないか!』
「ガズゥ!」
『早く中に入れてくれ。ビャクヤたちが、私は入れないというのだ』
「そうよ、あたしも入れないって」
「フェンリル様、この村に入るには、我らが主に許可を頂かねば入れません。ジーン、お前もだ」
『先程から、そう言っているのに、この方は……』
ビャクヤの呆れた声も聞こえてきたので、ひょっこりと門から顔をのぞかせる。
そこにいたのは、ビャクヤよりも少し小柄なフェンリルと、テオくらいの年齢の子供。それぞれが、ガズゥに向かって入れろ、入れないと揉めていたのだった。





