第838話 ノワールとマリンのつまみ食い
クリスマスイブの前日。
外は少しばかり曇り空。だいぶ気温も下がっているので、暖炉の火は欠かせない。
すでにクリスマスプレゼントは全部用意できている。一人一人、紙袋でラッピングしたのをタブレットの『収納』に入れてある。
今は、クリスマスケーキのデコレーションをしているところだ。
「やっぱり、生クリームは美味しいなぁ」
三枚のスポンジケーキの間には、たっぷりの生クリームと一緒に温室で作ったイチゴが挟まれている。
生クリームを滑らかに表面に塗るのは、ちょっとコツがいる。
「ま、まぁ、これでいいか」
若干の凸凹は愛嬌ということにしてもらおう。
絞り袋で生クリームを絞っていく。
「そして、イチゴをのせて完成~」
「出来た? 出来た?」
「味見は~?」
ノワールとマリンが私の両脇で声をあげる。
「味見って、散々、生クリーム作ってるところでやったじゃない!」
二人がボウルで生クリームを泡立てるのを手伝うというので任せたら、気が付いたら半分くらいに減ってたのだ(遠い目)。
「だ、だってぇ」
「だって、じゃないよ。まだ生クリーム塗り終えたのは一個なんだよ?」
今年はケーキ屋さんか、というくらいにスポンジを用意したのだ。
ケーキにしたら五個分くらい。それぞれ八等分にしたら四十人分。子供たちだけに配るなら、少し余裕があるくらい。
「また、新しい生クリーム作らないと全然足りない」
ほぼ空っぽになっている大きなボウルを見てため息をつく。
今年はチョコクリームのケーキも作るつもりで、ミルクチョコレートも買ってきてあるのだ。
もう一度、生クリームを作らなきゃ、と思っていると、別のボウルに山盛になっているイチゴに伸びる小さな手。
「あ、マリン! イチゴ食べちゃだめだよ」
「(あっ、見つかっちゃった!)」
つまみ食いしようとしたマリンに注意をした時。
「誰か来た」
ノワールが不意に外のほうへと意識を向けた。
「テオかな」
マリンの言葉に、外はかなり冷え込んでいたのを思い出し、慌ててドアを開ける。すると、マリンの言葉通りにテオが顔を真っ赤にさせながら敷地に駆け込んできた。
「サツキさまっ!」
「テオ、一人で来たの? わざわざ来るなんて、村で何かあった?」
「ガズゥが」
「ガズゥが?」
「ガズゥが帰ってきた!」
目をキラキラさせたテオが嬉しそうに叫ぶ。
そのテオの後ろから現れたのは。
「……え、誰?」
マルを腕に抱えて、駆け込んできた青年が一人。金色の目に、長い銀髪を一つにまとめた美青年だ。
若返ったネドリさん……というには、もう少し甘い顔立ち。
背の高さは稲荷さんのところの大地くんくらいだろうか。
青年は私と目があうと、ピカーッと音がしそうなくらい眩しい笑顔をみせた。
「サツキ様っ!」
「え、え、えぇぇぇぇ!?」
……まさかの、すっかり声変わりしてしまったガズゥが現れたのだった。