<村の大人たち ゲインズと土の精霊王>
火酒造りの一族の先代当主のゲインズ・アルコはニヤニヤしながら目の前のワイン樽を撫でていた。
今年のワインの新酒である。
『満足いくものは出来たか』
ゲインズの背丈の三倍はありそうな土の精霊王が、にんまりしながら声をかけてきた。
ドワーフの国からゲインズと共に移ってきた土の精霊王。五月の土地の中を、フラフラと飛び回り、何気に精霊たち以上にKPを生み出していたりする。
五月の土地の居心地のよさのせいで、なかなかドワーフの国へと戻ろうとしない。
今頃、ドワーフの国では採掘量が減って大変なことになっているが、精霊王は興味がない。
そんな土の精霊王だが、ほとんど村人とは交流はないが、ドワーフのゲインズだけは酒に釣られて声をかけ、ゲインズも貴重な精霊王からの言葉だけに、真摯に耳を傾ける。
それが酒の催促だろうとも。
「はい。精霊王様のおかげです」
そう言いながら、試飲用の小さなカップに樽のワインを入れて、精霊王に差し出す。
今年は葡萄も豊作な上に、ドワーフのハンネスの妹のタイーシャと息子のドレイクが頑張ったおかげで、去年できたワインよりも本数が倍になった。
ゲインズがやってきたことで、五月の村での酒の種類も増え、質もグンと上がった。
ワインはもとより、ハチミツを使って作るミードや、芋焼酎まで作り出した。芋焼酎はまだ満足いく出来ではないものの、飲めるものにはなった。
それは、五月の土地にいる様々な精霊たちの力はもちろんだが、土の精霊王がいるおかげで、その土地の力がグッと上がっているからだ。
試飲用のワインを一口飲んで、ほぉ、とため息をつく精霊王。
ふと思い出したように口にしたのは。
『そういえば、サツキの国の「ういすきー」や「ぶらんでー」なる酒も美味かったな』
何気に村の宴会に現れては、五月の差し入れの酒をこっそり飲んでいく土の精霊王。
『あれは作れんのか?』
「ああ、あれも美味でしたな……さすがに、一朝一夕には無理ですなぁ」
『ふーむ。今度、サツキに少し分けてくれと頼んでおいてくれないか』
「畏まりました……そういえば、サツキ様のお国では『くりすます』なる行事があるとかで、村人たちがプレゼントを用意しているとか」
『ふむ?』
「精霊王様も何かプレゼントをご用意すれば……」
『なるほど』
土の精霊王は少し考えてから、ニンマリと笑みを浮かべる。
『よし、サツキの土地に私の加護を与えよう』
「え」
『さすれば、もっとよい酒もできるだろう? なぁ、ゲインズよ』
「は、はぁ」
結局は自分が酒を飲みたいだけの精霊王。
――まぁ、よい原料からはよい酒が出来るのは確かだしな。
『して、お前は何をプレゼントするのだ?』
「私はこちらのワインを」
綺麗な緑の瓶の中には、赤ワインがたっぷりと入っている。
今年の新酒だが、精霊の言葉を聞くことができるドレイクが精霊たちに頼んで、熟成を早めて貰ったものだ。
本当は自慢の火酒をと言いたいところなのだが、どうも、この土地には合わないようで、ゲインズが満足する物が出来なかった。
そもそも、五月もそんな強い酒が飲めるほどではなかったので、ワインという選択は間違いではない。
『なんだ、そんないいワインが出来ているなら、我にもくれてもよかろうが』
「あ、いえ、そのぉ」
土の精霊王にジト目で見られて、困ってしまったゲインズであった。