<村の大人たち モリーナとアビー>
子供たちが手紙をうんうん言いながら書いている頃、魔道具職人見習いのモリーナは、手にある最後の一個に魔法陣を書き上げたところだ。
「はへぇぇぇ~。や、やっと終わった~」
椅子の背に寄りかかり、思い切り背伸びをする。
そんなモリーナを呆れた目で見るのは、アクセサリー職人のアビー。
「それが最後の一個?」
「そう! なんとか『くりすます』までに間に合ったわ!」
モリーナは村人たちからの依頼で、五月にプレゼントする物に色々な魔法陣を描きこむ依頼を受けていたのだ。
まず一番最初の依頼は、ハノエから頼まれた革製のリュック。
ハノエが妊娠がわかる前に、ママ軍団と一緒にダンジョンに通っていた時に獲った鹿の魔物の革でできている。
これがやたらと重い。ハノエたち獣人ですら重いと感じるのだから、五月では背負えても、すぐに疲れてしまうだろう、というので、重量軽減の魔法陣を描くのを依頼されたのだ。
次にテオママのラナからは、同じく鹿の魔物の革で作った太めのブレスレット、マルママのマナは得意の刺繍の入った革のベスト。それぞれにリュックと同じ魔法陣を描いた。
そしてドワーフたちから、ミスリル製の包丁一式に不壊の魔法陣を頼まれて、ようやく最後の一本を描ききったところだったのだ。
「お疲れ様。で、あんたはどうするの?」
「は?」
「だから、あんたはサツキ様にプレゼント用意しないの?」
「あ」
「……散々、迷惑かけてるんだからさぁ」
「わ、わかってる、わかってるわよっ!」
そう言いつつ、何も考えてなかったので慌てて、どうしようかと考え込むモリーナ。
そんな彼女を横目に、アビーは黙々と自分の仕事に集中する。
アビーが用意したのは、花のようなデザインのブローチ。中央に大きな青黒い魔石を配置して、その周囲に大きさの異なる白、水色、青の魔石で囲っている。どれも、高級な魔物素材で、王族が持っていてもおかしくはない物だ。
今はギャジー翁に魔法陣を描いてもらえるようにお願いしている。
モリーナに頼んでもよかったのだけれど、たまたま店に来ていたギャジー翁と話をした流れで頼むことになった。
不壊はもちろんだが、魔物除けや幸運アップなど、盛りだくさん。大きくはないブローチだが、ギャジー翁にかかれば、たやすいことと請け負って貰えたのだ。
――モリーナが知ったら、なんで自分にやらせなかったの、と怒りそうだけど。
アビーとしては渾身の力作だけに、最高の仕上がりにしたかったのだ。
「こ、こんにちは」
モリーナたちの店のドアを開けて入ってきたのは、最近村にやってきた人族のチャーリーとエヴィス。
「いらっしゃい。どうしたの?」
二人には土の精霊たちが寄り添うように飛んでいるのが見えることもあって、アビーは微かな笑みを浮かべながら、二人に目を向ける。
モリーナは、考え事をしていて無反応だ。
「あ、あの、なんか『くりすます』とかいう行事があるって聞いて」
「サツキ様に皆プレゼント用意してるって」
「ああ、うん。そうだね」
「お、俺たちも何か買えるような物ってありますか」
真面目な顔の二人を見たアビーは、ゆっくり立ち上がり、カウンターに並んだアクセサリーを説明していく。
「う、さ、さすがエルフ製ですね。ちょ、ちょっと俺たちの予算じゃ難しいかも」
困った顔のチャーリー。エヴィスも口をへの字にしてアクセサリーを見ている。
「……だったら、ダンジョンに行って来たら?」
「え?」
「この村にはエイデン様のダンジョンがあるの。村人たちしか知らない場所にね。私が村の人に頼んであげるから、一緒に行ってくればいいわ」
「ダ、ダンジョン……」
「フフフ、大丈夫よ。テオやマルも入れるくらいなのよ? それに獣人たちがいれば、浅い階層なら問題ないんじゃないかしら」
少し迷っている二人だったけれど、アビーが指定した魔石を持って帰れたら、魔石も買い取るし、アクセサリーも割引すると言ってきた。
それが決め手となり、二人はダンジョンに潜ることにした。
「モリーナ、ちょっと出てくるわ」
「……」
返事をしないモリーナをよそに、アビーはチャーリーたちと店を出た。