<村の子供たち>
村の寺子屋で子供たちがレキシー助祭から文字の勉強を受けている時。
「なぁなぁ」
ボルトが隣の席で必死に文字を書いているテオに声をかける。
「むぅ?」
ちょうど、文字を書いている途中に声をかけられたテオは、変な返事を返す。
「『くりすます』のプレゼントどうするよ」
「……『くりすます』っ!」
いきなり立ち上がったテオに、教室にいた皆の目が向けられる。
「テオ、どうかしましたか」
アマの文字を書くのを手伝っていたレキシー助祭が驚いた顔で問いかける。
「は、あ、いえ、あのぉ」
「うん?」
「く、『くりすます』のプレゼントのことをかんがえてた……です」
「『くりすます』?」
「そういえば、レキシー様は、去年の冬はいらっしゃらなかったわね」
孤児院の年少組で最年長のルルーがぽつりと言う。
そこからは、子供たちが去年五月にケーキを貰った話で盛り上がり、授業にならなくなった。
「なるほど。サツキ様のお国のお祝いなのですね」
「うん、そう!」
アマがニマーっと笑みを浮かべる。
「ことしは、サツキさまが、なんかつくってるって、マリンがいってたんだ」
ボルトが手をあげて言うと、子供たちは、おー、と声をあげる。
「ケーキかな!」
「いまからつくらないだろう?」
「たべものだしな」
「そうじゃなくて!」
テオが声をあげる。
「いっつも、サツキさまからもらってばっかりだから、おれたちからも、なんかプレゼントしなきゃっておもったんだ!」
いつになく真面目なテオの言葉に、教室の皆が目を瞠る。
「……そうだな」
「これも、そうだしね」
エフィムが自分の手首につけている、所々が傷んでいるミサンガに目を向ける。その場にいる子供たちが皆、それぞれ色違いのミサンガを付けていた。
「今から何か作っても、間に合うかな」
「何を作るというの?」
「サツキ様は何でも持ってらっしゃるでしょ?」
「おいしいものは、いつもサツキさまからもらったものだし」
「うーん」
子供たちが悩んでいる姿を、レキシー助祭が優しく見守る。
「なぁ、『くりすます』っていつだ?」
「あっ」
「フフフ、それでは、授業はここまでにして、ハノエ様にでも聞きに行きましょうか」
「はーい!」
子供たちは元気に返事をして、机の上を片付けだした。
村長の家まで行き、ハノエに『くりすます』の話を聞きにきたレキシー助祭。彼の後ろには子供たちが勢ぞろいだ。
「うちは、もう用意してありますよ」
「ええー!」
子供たちが声をあげる。
「フフフ、マグノリアさんも一緒に用意しているから、あなたたちは心配しなくてもいいのよ?」
「うちは?」
「……うちも」
テオとマルが心配そうに聞いている。
「当然、用意してるわよ。おうちに帰ったら、聞いてみなさいな」
「うん」
「わかった」
テオとマルがホッとした顔になる。
「なるほど。皆さん、それぞれにご用意されているんですね。(うーん、司祭様はどうされるのかなぁ)」
「でもぉ」
レキシー助祭の足元で、不服そうに声をあげたのはアマ。
「なんだい?」
「あたしもプレゼントしたいー」
「……そうだな、おれもちゃんと、ありがとう、したい」
「ぼくもぉ」
テオとマルまで言いだして、どうしたものか、とレキシーが困っていると。
「では、お手紙でも書いたらどうかな?」
いつの間に来たのか、ピエランジェロ司祭が声をかけてきた。
「おてがみ?」
「そうだよ。いつもありがとう、とお手紙を書くんだ。どれだけ書けるようになったか、サツキ様に見て頂こう」
「そうだね!」
子供たちは盛り上がり、手紙を書くために再び寺子屋へ戻っていく。紙と筆記用具は、すべて寺子屋にあるからだ。
そんな中、自信なさげに立ち止まっていたのはエリー。
「わたし、あんまりきれいにかけないわ」
「エリー、気持ちがこもっていれば、サツキ様は喜んで下さるだろう」
「そうかしら」
「そうだよ」
ピエランジェロ司祭が優しく頭を撫でると、エリーはへにゃりと笑みを浮かべて子供たちの後を追う。
「レキシー、見てあげてくださいね」
「かしこまりました」
ニコリと笑うと、レキシー助祭も寺子屋へと向かった。
五月が村にプレゼントを配りに来た時に、たくさんの手紙を渡されることになる。
相変わらず文字が読めない五月が、顔を強張らせるまで、あと少し。