第837話 指無しの手袋
午前中は風が強かったけれど、午後になって落ち着いたようで、マリンとノワール、セバスは、寒さを気にせず、外に遊びに行っている。
パチパチとリビングの暖炉の薪が爆ぜる音を聞きながら、黙々と指無しの手袋を編む。
小さい子たち用のは一日に三組編むことが出来た。一応、マリンの手を借りて、サイズ感も確認済み。
最初は綺麗に編めなかったけれど、回数を繰り返すうちに、それなりになった。凝った編み方はできないから毛糸の色使いでなんとかカバーしている。
今はもう一回り大きいサイズのものに挑戦中。男の子用にホワイトウルフのオフホワイトの毛糸に緑と青の毛糸を混ぜて編んでいる。
この調子でいけば、クリスマスイブの前には人数分の用意ができるだろう。
「何を編んでるんだ?」
突然のエイデンの声に、びっくりして顔をあげる。
「驚いたぁ……いきなり声かけないでよ」
「すまん、すまん」
そう言って隣に座るエイデン。
チラリと見ると、以前、私が編んだひよこ色のセーターを着ている。お気に入りらしく、村にいる時は、この格好の時が多い。
――もうプレゼントしたほうがいいかな。
この前買い出しの時に買ってきた、フライトキャップと青地のネルシャツとグレーのセーターは、今はタブレットの『収納』の中だ。
「何を編んでるんだ?」
「ん? 村の子たちに、クリスマスプレゼントに手袋をね」
「これは、指がないぞ?」
「そういう物なのよ」
「ほお」
一番小さいサイズの指無しの手袋は、エイデンの指が二本、頑張れば三本入るかな、というサイズ。確かに、手袋には見えないかもしれない。
「いいなぁ。俺も欲しいなぁ」
「なに言ってんの! 私たちもまだ作ってもらってないのに、なんでエイデンのを編んでもらえると思ってるの!」
「うわっ」
いつの間にか部屋に入っていたマリンが、エイデンをしかり飛ばした。
――そっか! 村の子供たちばっかり考えてた!
「マリンのもノワールのも作るよ!」
「やった!」
「いぇーい」
「俺のも~」
「はいはい。エイデンのもね」
一番大きな手のエイデンのを作るのは、少し時間がかかりそうだ。ちょっと余裕があるかなと思ったけど、そうもいかないかもしれない。
結局、マリンとノワールの視線に負けて、先に二人のを作って、クリスマス前だけどプレゼントしてしまった。
ノワールたちが喜ぶ姿に、私は笑みを浮かべるものの、隣にいるエイデンからのジト目の圧が少し邪魔。
そんな彼からの圧力のせいもあって、手袋を編むペースは早くなり……予定よりも早くに子供たちの手袋は編み上がった。
「なぁなぁ、今度こそ、俺のだろ?」
「はいはい。わかったって」
苦笑いを浮かべながら、私はどの毛糸にしようかと悩む。
ホワイトウルフのオフホワイトの毛糸は、エイデンのイメージじゃない。やっぱり黒系統が似合うと思うのだ。
リビングでカゴに入っている毛糸の玉を選んでいると、エイデンが向かい側に座って、ニマニマしている。
よっぽど嬉しいらしい。
――まぁ、ここまで期待されたらね。
私も口元をムニュムニュしながら、黒とグレーとネイビーの毛糸を手に取ったのであった。