第830話 臼と杵、理想と現実
ホームセンターの中をウロウロするのは楽しい。
しかし、買っておこうかな、というのはなかなか見つからない。
その代わりに、様々なパンフレットが重なっていく。主にキャンプ関係やガーデニング関係。確かに洒落た物が多くて購入意欲を刺激はするのだけれど、村の人(主にドワーフ)にお願いすれば作ってもらえそうな物が多いので、なかなか買うまでには至らない。
寝具類のコーナーにやってきた。
私の頭に浮かんだのは、チャーリーたちの母親のアリサさんが寝込んでいた時に使っていたクタクタの毛布のこと。
アレがあちらでは当たり前なのを、久々に思い知らされたのだ。なにせ、うちの村は、気が付けば私が買い込んできた物が溢れているもので。(遠い目)
「あ、この毛布良さげ。……よし、チャーリーたちに買って行こう」
あちらも寒くなってきていることもある。アリサさんが、また体調を崩すかもしれない、と思ったら、手が伸びていた。
ぐるりと一回りして入口近くのクリスマス商品のコーナーに戻る。
クリスマスツリーに飾るオーナメントや、カードの他に大きなクリスマスツリーも飾られている。
――ピカピカ光るんだったら、光の精霊たちでも十分かな。
そんなことを考えながら歩いているうちに、クリスマスのコーナーが終わり、正月飾りが集められているコーナーで立ち止まった。
時期が時期だけに、クリスマスのコーナーのほうが幅を利かせているけれど、それなりに商品が並んでいる。年賀状やら正月飾り、それにおせちの申込用紙とそれの食品サンプルがあってびっくり。その値段にもびっくり。
申し込んだところで受け取れないけれど、少しだけ興味を惹かれるのは仕方がないと思う。
――スーパーで買い込んでおこう。
まだおせちに入れるような食材は高くはないはずだ。
「え、これも売ってるの?」
おせちを考えていた私の視線の先には、大中小の門松飾りの脇に置かれた物体に目がいった。臼と杵だ。
臼は木でできている物と石でできている物がある。
木の臼は大きさは私が抱えても指先は届かないくらい。石の臼は大きいボウル状で木の台座で支えている。
臼と杵も売ってるのか、凄いなぁ、と感心して見ていると値札に目が行く。
「木の臼のほうが高いんだ」
――でも、これだったら、木工が得意なエトムントさんあたりに頼めば作ってくれそうじゃない?
杵も木製だし、ちゃちゃっと作ってくれそうだ。
道具を見ていたら、村で餅つき大会をやってもいいのではないか、という気になってくる。
――そうなると、もち米も必要だよね。あ、でも、もち米って炊くんだっけ? あれ? 蒸かす?
私は慌ててスマホを取り出し、餅の作り方を調べると、思っていたよりも前準備が必要そうなのに、ちょっとやる気がダウン。
それでも、蒸し器はあってもいいかもしれない、という気にはなった。
芋やトウモロコシ、野菜を蒸かしたり、シュウマイ、蒸しパンもできるかもしれない、と思ったら、大きな蒸し器の箱を手にしていた。
念のため、レシピをチェックしてから、あちらに戻ろう、と思った私は、荷物の載ったカートを押して会計するためにレジに向かった。