第828話 餅にはまるノワールとマリン
グレッグさん一家が村にやってきて一週間ほど経った。
なんとか村人たちとも上手くやれているようで、今、グレッグさんの畑では村人総出で小麦の種を蒔いているらしい。
そのおかげか、グレッグさんは毎日泣きながら村人たちに感謝しつつ、畑仕事をしているらしい。余程、前の村の生活がキツかったのだろう。
それもあってか、前の村の精霊たちはほぼこっちについてきてしまったそうなので、あの村の先行きは真っ暗だと思われる。
ちなみに、この辺りで小麦を蒔く時期としては少し遅いらしいのだが、精霊たち曰く、『よゆう~、よゆう~』なのだそうだ。
……そこは信じるのみである。
チャーリーたちの母親、アリサさんもなんとか家の中であれば動き回れるようになった。
最初、狼獣人のオババさんを見て、悲鳴をあげていたけれど、モモちゃんが懐いている様子や、チャーリーたちの話を聞いて、だいぶ落ち着いたようだ。
このまま、ゆっくり村に馴染んでくれればいいと思う。
見上げる青空には、うっすらと細い雲がたなびいている。
すっかり気温も下がり、ダウンジャケットを着てもいいくらいに寒くなった。
「さてと、今年最後の買い出しに行ってくるかな」
稲荷さんのキャンプ場の休業期間ギリギリなのに気付いた私。
ちょっと前に買い出しに行ったおかげで、タブレットの『収納』や家の裏手の貯蔵庫には、それなりに在庫はあるけれど、これから先、約三カ月を過ごすのには心もとない。
特に、大食らいたち(ノワールとか、エイデンとか、エイデンとか、エイデンとか!)のことを考えると、いくら買い込んでも足らないと思われる。
――こっちの食材も悪くはないんだけどねぇ。
魔物の肉はそれなりに美味しいし、野菜がほとんど季節関係なく食べられるのは、ありがたいくらいだ。
しかし、調味料や米といった、あちら特有の物となると、どうしても美味しいのはあちらとなってしまう。一応、こちらで育てた米もそれなりに美味しく食べられることは、付け加えておく。
それに、今回の目的は餅なのだ。
今までは年末年始に自分でちょっと食べるだけだったので、大袋一つあれば半分近く余るくらいだった。
その余っていた賞味期限間近だった餅を、お昼ご飯にしょうゆと海苔で食べる磯部餅を食べていたら、自分たちも食べると言いだした、ノワールとマリン。
おかげで、二人ともが餅に目覚めてしまったのだ。
その勢いで磯部餅だけでなく、しょうゆに砂糖、しょうゆにバター、きなこに、納豆と食べくらべしだしたので、なくなるのはあっという間。
もうない、と言っても、食べたいなぁ、と目をキラキラさせて見上げてこられては、買いにいかなくては、と思うわけで。
「いっぱい買ってきてね!」
「ちゃんとお留守番してるからっ!」
「はいはい」
軽トラに乗り込んだ私を、二人が元気にお見送りしてくれている。
――どれくらい買ってきたらいいんだろう。
少し不安に思いつつ、私は軽トラのエンジンをかけるのであった。