第827話 新しい畑を囲もう
私はタブレットを片手にグレッグさんの畑の端に立っている。
目の前に広がるのは、手つかずの荒地。背後にはグレッグさんと奥さんのアリサさんが頑張って耕した畑が広がっている。
そして私の周りには、アリサさんをのぞいたグレッグさん一家と、ホワイトウルフ、精霊たちが集まっている。
「さてと、畑を囲いますかね」
『どうするの?』
『なにするの?』
タブレットの周りに精霊たちが集まりだす。
「んーとね、あ、あった。これこれ」
私は『タテルクン』を立ち上げ、目当てのメニューを見つける。
「必要な材料は土と小石だし。在庫は十分あるから、範囲を決めて~、ポチッとな」
そして目の前にドドドドドーッと現れたのは、私の腰の高さほどの『土壁』。
ぐるりと畑の周りを囲み、一番端はエイデンの城のある山裾の道、今は枯れてしまっている桜並木のあるところまで繋げた。
「えぇぇぇぇっ!」
「なっ、なにこれっ!」
「すごーい!」
「……」
チャーリー、エヴィス、モモちゃん、そして最後のグレッグさんに至っては声も出ない模様。
昨日、大穴を開けた時も見てたはずなのに、なかなかの反応。ちょっとだけ、得意げになってしまうのは、許して欲しい。
私は目の前にできた『土壁』に手を置く。撫でたら土がポロポロ崩れるかなと思ったら、そんなこともなくて、思ったよりもしっかり出来てる。
厚みは三十センチくらいだろうか。私が腰かけても大丈夫そうなくらい。
これがただの『土壁』だったら、誰でも簡単に越えてきそうなので、念のため『鑑定』。
さすが『タテルクン』製。しっかり結界の機能があることを確認。ほぼ、ガーデンフェンスと同等のようなので、一安心だ。
『ねぇねぇ、サツキ』
人型の土の精霊が話しかけてきた。
「なに?」
『こいつらが、おねがいがあるって』
小さな光の玉が集まってきた。どうも、グレッグさんの村にいた土の精霊たちらしい。
『あっちのむらではえてた「イビルローズ」をうえさせてもらえないかって』
「いびるろーず?」
「えっ?」
私の言葉に反応したのは、グレッグさん。振り返ってみると、顔を強張らせている。
「ん? グレッグさんは『いびるろーず』って、何か知ってるんです?」
「は、はい……うちの村に野生で生えている蔓性の茨の一種でして。畑のほうに生えてきて邪魔だったのですが、刈っても刈っても生えてくる厄介なヤツなんですが」
「え、そんなのを植えるの?」
思わず、顔をしかめて土の精霊に言うと、小さな光の玉たちがキューッと集まってプルプル震えだす。
『もう、サツキってば。ただやっかいなだけだったら、たのまないって』
人型の土の精霊が呆れたように言う。
彼が言うには、『イビルローズ』は、村の周りに植えてあるマギライと同じ、魔物除けの植物らしい。小さな光の玉たちが言うには、グレッグさんの村では、それを知らずに時々刈っていて、魔物の被害にあってたらしい。
それを聞いたグレッグさんは、初めて知ったらしく、頭を抱えてしゃがみこんでいる。
「はぁ……馬鹿だねぇ」
『ねぇ? だからぁ、ここのつちかべにそってうえれば、マギライとおなじに、まものよけになるんだって』
「なるほどねー。わかった。植えてもいいよ。まぁ、無理しないで」
『!!!!!』
『♪♪♪♪♪』
声を発することはなかったけれど、小さな光の玉たちが嬉しそうに飛び交ったのは言うまでもない。
翌朝、様子を見に行ったら、土壁の周りに私の背丈ほどのトゲトゲのある植物が生えていた。
隙間なく生えている様子に唖然とする。
「……無理しないでって言ったよね」
『おれたちもてつだったからさぁ』
へへんと自慢げに言う、人型の土の精霊たちの姿に、思わず苦笑いしてしまった。