第826話 ホワイトウルフとモモちゃん
ピエランジェロ司祭から言われて、すぐにグレッグさんと、まだベッドで寝ている奥さん(アリサさんというらしい)を村に入れるようにした。
村人たちには、ケニーとラルルから説明してくれていたようで、すぐにオババが薬を、食料関係をハノエさんたちママ軍団&マグノリアさんが持ってやってきた。
グレッグさんには、空での移動中に獣人たちが住む村なのは説明していたけれど、実際に会わせてみたら、思ったほど拒否感のようなものがなかったのでホッとした。
――これなら、なんとか村でも生活していけるかな。
私たちはグレッグさん一家を残して、村へと戻ることにした。
村の中に入ると、街灯やあちこちの家で窓の灯りがもれていて、人の温かい営みを感じる。
チャーリーたちの村では、とげとげしい空気しかなかったけど、うちの村はそんなことはない。それが嬉しい。
私はタブレットの『収納』からスーパーカブを取り出して、エンジンをかけて走り出す。
「ねぇねぇ、今日のお夕飯は?」
スーパーカブの脇を同じスピードで走る子供の姿のノワールが、のんびり聞いてきた。
マリンとセバスはその後をついてきている。エイデンは……歩いている。あのスピード感は絶対、おかしい。
「そうねぇ。もう遅いから作り置きでいい?」
「美味しければ、問題なしっ!」
「俺は、カレーが食いたい」
「あ、カレーいいねっ!」
エイデンとノワールがはしゃぎだす。
「エイデンには頑張ってもらったものね。『収納』にあったはずだから、それでいいか」
「イェーイ」
作り置きしておいたカレーが全てなくなったのは、言うまでもない。
翌朝、しっかり防寒してスーパーカブで村に向かう私。手袋しないと手がかじかんでしまうくらいに、寒くなっている。吐く息も白い。
あんまり寒いので、我が家のちびっ子たちはお留守番を選択した。
――まぁ、いいけどぉ。
村に着くと、すぐにグレッグさんの家へ向かうと、家の周りにホワイトウルフたちが数匹寝ていた。
私に気が付いた一匹が顔をあげてこちらを見ると、すぐに立ち上がり、尻尾を振りながら近づいてきた。
「もしかして、守ってくれてた?」
声をかけながら頭を撫でてあげると、先ほどよりも嬉しそうに尻尾を振りまくる。
他の子たちも続々と私の周りに集まってきたので、皆を撫でまくっていると、グレッグさんの家の玄関ドアが細く開いた。
「サ、サツキ様ですか?」
グレッグさんが、恐々といった感じで声をかけてきた。
「あ、おはようございますっ!」
「おはようございます……あの、その狼たちは」
「大丈夫ですよ。この子たちは、この周辺を守ってくれてたみたいです」
「ほらー! だいじょうぶだっていったじゃないっ!」
元気なモモちゃんの声が聞こえたかと思ったら、グレッグさんの背後から飛び出してきた。
「サツキさま、おはようございますっ! わたしも、さわってもだいじょうぶ?」
目をキラキラさせながら走ってくる。
「大丈夫だと思うけど、あんまり強くは触らないであげて」
「はーい……ねぇ、さわってもいい?」
一番近くにいた大きなホワイトウルフに声をかけるモモちゃん。
チャーリーやエヴィスも、グレッグさんの背後から見ているだけだ。この家で一番勇敢なのはモモちゃんかもしれない。