第825話 チャーリー一家、村に到着する
チャーリーたちの村から飛び立った時には、見せつけるためもあったのかもしれないけれど、大きな古龍の姿を現わしていたエイデン。
このまま飛び続けたら、周辺の領地を治める貴族たちから難癖付けられるんじゃないかと、思って、姿を見えないようにしてくれるように頼んだ。
ケニーとラルルからは、呆れたように今更では、と言われたけど、やらないよりはやっといたほうがマシだと思う。
獣人の村の上空までやってきて誰も反応してないことに気付いたエイデンが、いきなり家や大きな土地を持って、現れたものだから、それはもう、大騒ぎになったのは言うまでもない。
特に赤く染まった空に、真っ黒な巨大な姿なのだもの、当然だ(遠い目)。
結局『ヒロゲルクン』を使って、獣人の村の北側に大きな穴を作って、そこにチャーリー一家の畑を移植した。
広さからいっても、獣人の村の北側の畑の倍くらいある。これを夫婦で世話していたというのだから、立派なものだ。
家は畑のそばに設置したので、畑の作業する移動は前の村の時よりも楽なはずだ。
「……とんでもねぇ」
家から出て目の前の畑の様子に、ボソリと声を漏らすグレッグさん。
一方で嬉しそうに畑の周りを走り回っているのはモモちゃんと、ノワールにマリンだ。
「よ、よかったんですか?」
心配そうに声をかけてくるチャーリー。
確かに、いきなり土地ごと引っ越しさせちゃったら、心配にもなるか。
「まぁ、大丈夫でしょ。精霊たちも喜んでるし」
「せ、精霊っ!?」
実際、この場所に到着してから、畑の土地にへばりつくように小さく光っていた精霊たちが、ぶわーっと力強く光るようになったのだ。
よほど、ここと相性がいいのかもしれない。
「それよりも、ここは村の外になるから、石壁で囲ったほうがいいんじゃないか?」
私の背後に立つエイデンが声をかけてきた。
「そうだよね。かなり広げないといけないけど、石の在庫あったかなぁ」
「じゃあ、どっかからトってくるか」
エイデンの『トってくる』の響きに不安を感じるのは私だけだろうか。
「と、とりあえず、今ある在庫で何か出来ないか見てからにするわ」
「そうかぁ?」
思い切り残念そうな顔をしているエイデンをよそに、タブレットの『収納』を見る。
木材は思ったほど残っていなくて、これから冬になることを考えると、これを使うのはもったいない。
むしろ、どうしたらいいんだってくらいあるのが、土。チャーリー一家の畑を設置するために取り出した土が大量にあるのだ。
「土を使ったものって何かあるかなぁ……」
タブレットの『タテルクン』を見ていく。
「サツキ様、もう暗くなってきています。とりあえず、明日にしては」
背後から声をかけてきたのは、いつの間にかやってきたピエランジェロ司祭。
そう言われて空を見上げたら、確かに空に星が瞬き始めていた。
「す、すみません」
「いえいえ、それよりも、あの者たちを村へ招き入れてもよろしいですかな」
畑の前で立ち尽くしているグレッグさんとチャーリー兄弟に目を向けるピエランジェロ司祭。
「ああ、そうでしたね!」
私は慌てて彼らのほうへと歩み寄るのであった。