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山、買いました ~異世界暮らしも悪くない~  作者: 実川えむ
四度目の冬支度
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 <エイデンと精霊たち>

 エイデンが家から出てくると、チャーリー一家の家の周りにいた村人たちが、ぞろぞろと近寄ってくる。


「おいっ、あんたっ」


 中でも敷地の中へと入ってこようとして、最初に荒げた声をあげた男がいたが、エイデンは相手に目もくれない。

 その男は顔を赤くしエイデンにつかみかかろうとしたが、突然強く光り出したエイデンに、目を閉じてしまった。


「くそっ、な、何が起きているっ!」


 文句を言いながら、次に目を開けた時、目の前にいたはずのエイデンはおらず、上空に真っ黒で巨大なドラゴンの姿が目に入った。


「……えっ……ひぃぃぃっ!」

「ド、ドラゴンッ」


 村を覆うほどの大きさの黒いドラゴンに、阿鼻叫喚の村人たち。


「に、逃げろッ」


 そんな彼らをよそに、エイデンはチャーリーたちの家を触れもせずに地面ごと宙に浮かせ、エイデンの右手の上に載せた。

 バラバラと土や石が、家の周辺に集まっていた村人たちの頭の上へと落ちていく。

 家の窓からは、五月が呆れたような目を向けているし、その背後に立っているケニーとラルルはニヤニヤしている。

 人の姿のエイデンだったら、ピープーと口笛を吹いて誤魔化していたかもしれないが、今は古龍の姿。とりあえず、視線だけは外しておく。


 ――さ、さてとー、あとは畑か。


 エイデンが周囲を見回すと、目の前を人型の土の精霊が飛んで指をさす。


『チャーリーんちのはたけは、あのへん~』


 精霊が示した一帯は、小さな光の玉で囲われている。この土地に元々いた精霊たちであり、彼らに好まれていた場所でもあることも意味している。


『ほお。随分と広い土地ではないか』


 村の畑と思われる土地の五分の一ほどはありそうだ。


『グレッグたち、がんばってた』

『がんばってたー』

『そうか。では、それほどに頑張っていたのだから、村の連中にやるのは業腹だな』


 ムフーッと荒い鼻息を噴き出したエイデンは、指先を畑のほうに向ける。


 ドゴーンッ


 まるで、某アニメ映画の浮島のように、チャーリー一家の畑の土地が宙に浮いている。畑の跡地には、深い、深い穴が残った。


『思ったよりも広いが、まぁ、運べなくはないな』

『さすがー』

『さすがー』

『エイデンなら、やれるとおもったー』

『……お前ら、偉そうだな』


 土の精霊だけでなく、風や光の精霊まで、エイデンの周りを飛び交いながら、エイデンを煽てるが、エイデンもまんざらでもなさそうである。


『さぁ、五月の山へ帰ろうぞ』

『わーい』

『わーい』

『あー、おいてかないでー』


 バサリ、バサリと大きな羽をはばたかせると、強い風が村に吹き下ろされる。

 エイデンは地上に目を向けることなく、五月の山のほうへと飛んで行く。その後を、いくつもの光の玉が追いかけていく。






「あー、ひかりがいっちゃう……」


 ぽそりと小さく呟く幼い子供が一人。

 モモの友達で、ムラオーサの元に知らせに行った子供だ。


『しかたがないさ。このとちはいとしごにきらわれちゃったんだもの』


 子供の肩の上に小さく光る土の精霊。労わるように、子供の頬を撫でる。


『でも、わたしはあんたといっしょにいるからね』


 しかし、子供には精霊の声は聞こえない。

 細く長く、精霊たちの光の線が伸びていき、ふつりと途切れた。この村に残ったのは、この小さな精霊だけとなった。


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