<エイデンと精霊たち>
エイデンが家から出てくると、チャーリー一家の家の周りにいた村人たちが、ぞろぞろと近寄ってくる。
「おいっ、あんたっ」
中でも敷地の中へと入ってこようとして、最初に荒げた声をあげた男がいたが、エイデンは相手に目もくれない。
その男は顔を赤くしエイデンにつかみかかろうとしたが、突然強く光り出したエイデンに、目を閉じてしまった。
「くそっ、な、何が起きているっ!」
文句を言いながら、次に目を開けた時、目の前にいたはずのエイデンはおらず、上空に真っ黒で巨大なドラゴンの姿が目に入った。
「……えっ……ひぃぃぃっ!」
「ド、ドラゴンッ」
村を覆うほどの大きさの黒いドラゴンに、阿鼻叫喚の村人たち。
「に、逃げろッ」
そんな彼らをよそに、エイデンはチャーリーたちの家を触れもせずに地面ごと宙に浮かせ、エイデンの右手の上に載せた。
バラバラと土や石が、家の周辺に集まっていた村人たちの頭の上へと落ちていく。
家の窓からは、五月が呆れたような目を向けているし、その背後に立っているケニーとラルルはニヤニヤしている。
人の姿のエイデンだったら、ピープーと口笛を吹いて誤魔化していたかもしれないが、今は古龍の姿。とりあえず、視線だけは外しておく。
――さ、さてとー、あとは畑か。
エイデンが周囲を見回すと、目の前を人型の土の精霊が飛んで指をさす。
『チャーリーんちのはたけは、あのへん~』
精霊が示した一帯は、小さな光の玉で囲われている。この土地に元々いた精霊たちであり、彼らに好まれていた場所でもあることも意味している。
『ほお。随分と広い土地ではないか』
村の畑と思われる土地の五分の一ほどはありそうだ。
『グレッグたち、がんばってた』
『がんばってたー』
『そうか。では、それほどに頑張っていたのだから、村の連中にやるのは業腹だな』
ムフーッと荒い鼻息を噴き出したエイデンは、指先を畑のほうに向ける。
ドゴーンッ
まるで、某アニメ映画の浮島のように、チャーリー一家の畑の土地が宙に浮いている。畑の跡地には、深い、深い穴が残った。
『思ったよりも広いが、まぁ、運べなくはないな』
『さすがー』
『さすがー』
『エイデンなら、やれるとおもったー』
『……お前ら、偉そうだな』
土の精霊だけでなく、風や光の精霊まで、エイデンの周りを飛び交いながら、エイデンを煽てるが、エイデンもまんざらでもなさそうである。
『さぁ、五月の山へ帰ろうぞ』
『わーい』
『わーい』
『あー、おいてかないでー』
バサリ、バサリと大きな羽をはばたかせると、強い風が村に吹き下ろされる。
エイデンは地上に目を向けることなく、五月の山のほうへと飛んで行く。その後を、いくつもの光の玉が追いかけていく。
「あー、ひかりがいっちゃう……」
ぽそりと小さく呟く幼い子供が一人。
モモの友達で、ムラオーサの元に知らせに行った子供だ。
『しかたがないさ。このとちはいとしごにきらわれちゃったんだもの』
子供の肩の上に小さく光る土の精霊。労わるように、子供の頬を撫でる。
『でも、わたしはあんたといっしょにいるからね』
しかし、子供には精霊の声は聞こえない。
細く長く、精霊たちの光の線が伸びていき、ふつりと途切れた。この村に残ったのは、この小さな精霊だけとなった。