第824話 チャーリーたちの村での騒動(5)
チャーリーの母親が落ち着いたようで、寝室のほうから母親をのぞいたチャーリー親子が現れた。
「大丈夫?」
私が声をかけると、また目から涙を零しそうになるチャーリー。
「ありがとうございますっ」
「サツキさまっ!」
目を真っ赤にしたモモちゃんは、私のお腹あたりに抱きついてきた。
「まぁ、よかった、よかった」
頭を撫でながら、今度はチャーリーの父親、グレッグさんへと目を向ける。
「……大丈夫ですか」
「は、はいっ、あ、あの、子供たちだけでなく、つ、妻も助けていただきっ、あ〝、あ〝りがどうございまじだぁぁぁぁっ!」
……最後には、また号泣しだしたグレッグさん。ついには床にへたりこんで、ワーワー泣き出す始末。
泣き顔が凄いことになってて、笑っちゃいけないのに、笑いそうになってしまう。
「ちょ、ちょっと親父っ」
慌てるチャーリーと、エヴィスまでワーワー泣き出してる。その姿を見たモモちゃんはといえば……。
「ブフフフフッ!」
……笑いだしてしまった。
でも、気持ちはわかる。私も我慢できなくて「グフッ」と変な声が出てしまった。
「お、おとうさん、へんなかお~っ!」
「モ、モモ~ッ」
モモちゃんの言葉に、また凄い顔になってしまうから、キリがなさそうなので、私は笑いをこらえながら、皆のためにお茶をいれることにした。
エイデンが皆に座るようにいい、彼らにハーブティーの入ったコップを並べていく。これはタブレットの『収納』にしまっておいた大きい水筒にいれておいた物だ。夏に山のハチの巣近くで咲きまくったカモミールで作ったものだ。
「お、おいしい」
モモちゃんがホッとしたような顔でゆっくりと飲み干していく。
「さてと」
皆が一息ついたところで、私は先ほどのムラオーサさんとのやりとりを話す。
「あ、そ、そうだったんですね……領都から新しく来た人とは、まだお話もしてなくて……」
「なんか、他の村の人たちも邪魔してるっぽいしね」
家の外をウロウロしている気配が私でもわかる。
「あのぉ、グレッグさん」
「は、はい」
「この村、離れません?」
私はズバリ言ってしまった。
「どう見ても、居心地悪そうだし、村中があんなんじゃ、このまま居続けても、辛いだけでしょう?」
「……」
悔しそうな顔のグレッグさん。
「サツキ様」
「ん?」
「この土地は、亡くなったじいさんが切り開いた土地だったんです。だから……」
「そっか……」
グレッグさんとしては、この土地への思い入れはひとしおだろう。
「だったら、土地ごと持っていけばいい」
カモミールティーを飲み切ったエイデンが事もなげに言う。
「え、できるの?」
「俺だぞ?」
「いや、えー、うん、まぁ、そうだね?」
家ごと運べるんだし。土地ごともありなのか?
エイデンの言葉に、ポカーンとするチャーリー一家。ケニーとラルルは、ニヤニヤしている。
「ねぇ、エイデン、外の連中、邪魔くさいから、さっさと行かない?」
顔を顰めたマリンの言葉に、エイデンもムッとした顔になる。
確かに、窓の外からチラチラ人影が動いていて、私もウザいなと思っていた。
「じゃあ、いいな?」
エイデンがグレッグさんに念押しをするが、理解が追いついていないようだ。代わりに、チャーリーたちが「お願いしますっ」と声を揃えて言った。
「よーし」
エイデンが嬉しそうな顔で玄関のドアを開けて出ていく。
「あ、あの、だ、大丈夫なんですか?」
グレッグさんが不安そうに聞いてくる。
エイデンがどうするつもりかわからないけど、彼がやる気ならたぶん大丈夫なんだろう、と思いたい(遠い目)。