第823話 チャーリーたちの村での騒動(4)
ムラオーサさんは二、三日前にこの村にやってきたばかりなのだという。
元々、補佐をするためにやってきたのに、入れ違いに前任者が領都に報告に向かってしまい、その間、ムラオーサさんが管理を任されているのだという。
「前任者からは、村自体には特に問題はないと聞いてまして。実際、書類を見ても、去年までは納税も差異無く問題なかったんです」
額の汗を拭いながら、真っ青な顔で私から視線をはずしながら話をしている。
ただ、改めてムラオーサさんが調べなおしてみると、今年になってから動きが怪しくなってきていることに気付いたそうだ。
今は、その洗い出しをしなおしているところなのだそう。
――前任者、怪しすぎでしょ。
ムラオーサさんがちょっと調べてすぐにわかるなんて、どんだけ杜撰なんだ。
私はジロリとムラオーサさんを睨む。
「そ、それと、最近、グレッグの妻が体調を崩しているとは聞いていましたが、大丈夫ですか」
「体調を崩してるどころじゃなかったんですけど」
「は?」
「死にかけてましたけど」
「えっ」
「食料はほとんどないし、裏の倉庫も芋が少しあるくらいだって。グレッグさん? たぶん、チャーリーたちの父親のことだと思うけど、彼も骨と皮だけって感じだったし。ねぇ、それって、ここの村皆がそうなの?」
「い、いえ、そんなことは」
「だよねぇ。私たちのことを《《盛大に》》出迎えてくれた人たちは、立派な体格してたもの」
「……っ!」
タラタラと滝のように冷や汗を流しているムラオーサさんが、観念したように目を閉じながら話を始めた。
今、村で騒いでる連中は、前の村長と繋がりが強い家の者たちらしい。
前任者が護衛の半分以上を連れて戻ってしまった今、屈強な村人たちのほうが数が多いらしく、今いる彼らだけでは抑えきれないのだとか。
そしてムラオーサさんを呼んでくれたのは、村の中でもチャーリー一家の近所の家の、特にモモちゃんと仲良くしていた子供だったそう。
ただ、チャーリーの家族と仲良くしているのを他の村人たちから見咎められると、同じような扱いをされてしまうので、時々だけれど密かに手助けをしていたらしい。
それでも、今の状態なのだ。
「これ、ちゃんと辺境伯家に報告されますよね?」
「と、当然ですっ!」
「そう……でも、チャーリーたちは、もうこの村にはいたくないと思うんですよねぇ」
私だったら、こんな村からはすぐに出ていく。
チャーリーたちに確認はしていないけど、こんな村にいたらダメだと思う。
「エイデン、チャーリー一家をうちの村に連れてってもいいよね」
「五月がいいなら」
「この家ごと、運べる?」
前にドワーフたちの家族を運ぶ時にも、同じことをやっていたのを思い出し、エイデンに聞いてみた。
「当然」
ニヤリと笑うエイデン。
よし、と気合を入れた私は、目の前のムラオーサさんに冷ややかな眼差しを向ける。
「じゃあ、片付けがありますんで、家から出てってくれます?」
「え、あ、あの?」
「はいはい、出てって、出てって~」
ラルルとケニーに腕をとられ、ポイっと外に放り出されるムラオーサさん。
呆然としている顔が一瞬見えたけど、ケニーがすぐにドアを閉めてしまった。