第822話 チャーリーたちの村での騒動(3)
ベッドではモモちゃんが女性に抱きついて泣きじゃくっている。
その様子に、私ももらい泣き。これは仕方ないと思う。
みかんジュースのおかげでなんとか意識を取り戻した女性は、案の定、チャーリーたちの母親で、ベッドの脇で呆然としてた男性は父親だった。
「親父、大丈夫か」
「チャ、チャーリーか」
チャーリーたちに声をかけられて、ようやく現実に戻ってきた父親は、また涙をボロボロ流している。そのうち干からびちゃうんじゃないかってくらいの涙が溢れている。
ここはしばらく家族だけにしたほうがいいだろうとなって、私たちは部屋から出ることにした。
リビングに戻ると、私たちは目についた椅子に座り、ホッと一息。
「……間に合ってよかったわ」
思わず、ポツリと呟いてしまう。
あの時は焦ってよく見ていなかったけれど、思い返してみると、チャーリーたちの母親も父親もかなり痩せていた。特に母親のほうは骨が浮き出ている感じだった。
「ねぇ、食べ物が何にもないよ」
いつの間に人の家の中を漁っていたのか、ノワールがムッとしながら台所のほうから顔を出した。
『このいえには、しょくりょうはほとんどのこってないよ』
『うらのなやに、いもがすこしのこってる』
『あきのしゅうかくは、ほとんどむらびとたちにもってかれてた』
ズモモモモーッという音が聞こえそうなくらい不機嫌そうな精霊たちが教えてくれた。
「へぇ……」
……私にもおどろおどろしい効果音がついてるかもしれない。
そこにドンドンドンという玄関のドアを叩く音がした。
玄関のそばにケニーとラルルが厳しい顔で立っていたので、頷いてみせる。
「誰だ」
ケニーがドア越しに声をかけた。
『すまん! 私はこの村の管理を任されているムラオーサという者だ』
「……レミネン辺境伯のところの者か」
『そうだ! 話がしたいのだが、中に入れてもらえないかっ』
ケニーは、どうします? という表情で見てきた。
声が必死な感じがしたのと、エイデンたちがいるから何があっても大丈夫でしょ、と思ったので、再び頷く。
ドアを開けると、立派な体格をした中年の男性が額に汗を光らせながら入ってきた。ただでさえ大柄なメンバーがいるリビングが、もっと狭苦しい感じになる。
――え、この人が文官?
ケニーと並んでも遜色ないくらい背も高いし、騎士の格好をしても似合いそうだ。
「すまんな……お前たちは、そこで待機していろ」
「ハッ!」
どうもムラオーサさんは、護衛らしき人も連れてやってきていたらしい。
「村の者から、グレッグのところに子供たちが戻ってきたと聞いてな……君たちは、どう見ても違うようだが、子供たちは?」
「今、中で」
「そうか。よかった」
本当にホッとしたように、大きくため息をつくムラオーサさん。
村人がこの人に知らせに行った、ということは、この人は村人側なんだろうか。ケニーにも労わるような声をかけていたから、いい人なのかと思ったんだけど。
「……チャーリーたちのことでしたら、無事に帰ってきてますけど、用件はなんですか? 代わりに聞いておきますけど」
「貴女は」
「彼らを保護した者ですけど」
それを聞いてハッとするムラオーサさん。
ちゃんと情報が伝わっているのか、すぐさま膝をついて頭を下げた。二度目ともなると、私も慌てない。苦い顔にはなるけど。
「これは失礼しました! 『神に愛されし者』、御自らいらっしゃるとは思わず」
「そういうのいいんで、立ってください」
「しかし」
「立てと五月が言っている」
エイデンの威圧をのせた声に、ビクリと肩を震わしたムラオーサさん。そろりと立ち上がり、私たちのほうへと青ざめた顔を向けた。