第821話 チャーリーたちの村での騒動(2)
私は青ざめた顔のラルルに駆けよる。
「どうしたの」
「は、はい。あのモモちゃんのお母さんが」
ラルルが全部言い切る前に「連れてって」と言うと、ラルルは頷いてチャーリーたちの家のほうへと歩き出す。私も小走りで追いかけた。
エイデンの威圧で固まってた村人たちが、再びギャーギャー言いだしたけど、完全無視。
村の入口で騒ぐ人たち以外にも、家から見ている人がいたようだ。村の中を走る私たちに、彼らから向けられる視線が痛い。
チャーリーたちの家は、村の奥のほうにあった。微かに、モモちゃんの泣き声が聞こえてくる。
ラルルが家のドアを開けると、一層大きくモモちゃんの泣き声が響く。
「おかあさん、おかあさんっ」
リビングには誰もいない。奥に部屋があるのだろう。ラルルはそのまま家の中へと入っていく。
「モモちゃんっ」
私が声をかけると、奥の部屋からドタドタと足音をたてて涙でボロボロになっているモモちゃんが出てきた。
「サツキさまっ、おかあさんがっ」
部屋の中をのぞくと、ベッドの脇で涙を流しながら呆然としている中年男性が一人。私たちが入ってきたのにも気付いていないようだ。
私はすぐさまベッドの脇へと近づく。
顔色の悪い中年の女性が横たわっている。微かに息をしているけれど、これは危ない気がする。私でもわかってしまうくらい、状況はよくないように見える。
――どうしよう、どうしよう。
この状況に焦ってしまう。
『サツキ、ブルーベリーのジャムは?』
『ジャムじゃなくて、ジュースのほうがいいだろ?』
『このまえとった、みかんもあるだろ』
私の背後でわきゃわきゃしている精霊たちの言葉と、
「落ち着け。まだ、大丈夫だろう」
エイデンの宥めるような声に少しだけ落ち着いて、深呼吸をする。
私はタブレットの『収納』を開いて、何かないかと探してみる。精霊たちが言ったように、ブルーベリーがあればよかったけど、すでに在庫はない。
みかんは確かにあったけど、まだ未加工のままだ。
「とりあえず、みかん」
一瞬悩んだけど、選んだのはみかん。
籠に入れた状態で『収納』してたので、籠ごと出す。部屋の中が一気にみかんの香りが溢れる。
私は一つだけ手にとり皮をむくと、一房だけ中年女性の口元にもっていく。
さすがにそのまま食べるのは無理だから、口元で潰して果汁を口にふくませてみる。
「あっ!」
モモちゃんが声をあげる。
女性が無意識に唇を舐めたようだ。
――これならいける。
私が一房ずつ潰していると「五月、これでどうだ」とエイデンが声をかけてきた。
なんと、エイデンたちがみかんジュースを作ってくれていたのだ。
「ありがと」
私は『収納』からタオルを取り出して、彼の差し出してきた木製のコップを受け取る。
タオルにジュースを含ませようとした時、横たわっていた女性が薄っすらと目を開けた。