第820話 チャーリーたちの村での騒動(1)
本気のエイデンにかかれば、レミネン辺境伯領なんて、ものの一時間で到着してしまう。
「早い……」
馬車から降りたチャーリーの最初の一言。
目の前に広がる畑と、少し離れたところに見える村の様子を、呆然と見ているチャーリーとエヴィス。
畑はすでに収穫が終わっているのか、土だけの状態だ。
周囲にはポツリポツリと小さな林らしきものはあるものの、見渡す限り、まっ平な土地だ。
そんな中、巨大な古龍が飛んで来たら、あちこちでパニックが起こりそうなものだが、そこは古龍。ちゃんと姿が見えないような魔法を使っていた。
チャーリー兄弟の背後からモモちゃんは飛び降りたとたん、猛ダッシュで村のほうへと駆けていく。
「モモッ!」
「待てッて!」
兄二人も急いで追いかけていく。
「私が追いかけます」
ラルルが三人の後をついていく。当然、変化の魔道具であるブレスレットを付けているので、普通の女性の冒険者に見えている。
私は馬車をタブレットの『収納』にしまい、人型のエイデンとケニーと一緒に村のほうへと歩いて行く。ちびっ子たちは、あちこち勝手に走り回っている。(遠い目)
村までのんびりペースで歩いたので、10分くらいかかってしまった。思った以上に距離があった。
「あれ? なんかもめてる?」
村の入口で、チャーリー兄弟が村人らしき中年男性たちと喧嘩腰で話している。
モモちゃんはその場にいない。ラルルもいないから、二人は一緒に家に向かったんだろうか。
「どうしたの?」
「あ、サツキ様」
顔を真っ赤にして怒った顔だったチャーリーが、私の顔を見て、くしゃりと悔しそうな顔になる。
「何?」
私は中年男性のほうへと目を向ける。
「誰だ、こいつは」
「は?」
偉そうに言う中年男性に、思わず低い声で反応する。
「ひっ!?」
中年男性が顔を真っ青にして、後ずさりしている。
――え、そんなに私、怖い?
そう思ったけど、彼らの視線は私ではなく、私の背後に向かっている。
――エイデンね。
彼がどんな顔をしたのか、あえて見まい。
「で、何だって言うの」
「こ、こいつら、村長たちが捕まったのは俺たちのせいだって」
「……悪いのはあいつらなのに」
「ハッ! 村長たちがあんなことするわけがねぇ!」
「そうだぁ。あんないい人たちを村から追い出すなんて」
徐々に他の村人たちが集まってきている。皆、私たちに冷ややかな目を向けて、ブーブーと文句を言ってくる。
「……へぇ。この村って、村人を奴隷にしようとするような村長を支持するんだ」
「それが嘘だって言ってんだっ!」
「証拠は?」
「は?」
「だーかーらー、その嘘っていう証拠」
彼らの言い草に、イライラしてきた私。
「そ、村長が嘘をいう訳がねぇんだっ!」
「……馬鹿じゃないの?」
「ば、馬鹿だとぉっ」
中年男性がヒートアップして、私に掴みかかろうとしてきた時。
「黙れ」
エイデンのひっくい声が響く。
その声の威圧に、村人たちはびくりと固まった。
「あ、サ、サツキ様」
そんな中、ラルルが慌てたように走ってきた。