第86話 吹雪に閉じ込められ……春を思う
元旦からいい天気が続いていて、このまま、雪も積もらないで済むのかなぁ、と、のんきに思っていたら、突如、ドカ雪が降ってきた。
しかし。
「なんで、積もってないの?」
ログハウスから出てみて驚いた。
うちの敷地の中には雪が積もっていないのに、トンネル側や湧き水側に抜ける出入り口に、雪の壁が出来ているのだ。完全に、閉じ込められた感じ。
空を見上げる。ちゃんと雪は降ってきている。むしろ、ビュービュー吹雪いているっぽいんだけど……なぜか、この敷地の中では、それほど強い風を感じない。そもそもこの敷地に降ってくる雪の量が少ないのか、積もらない。そして、すぐに溶けていく。
――どうなってるんだ!? やっぱり、異世界仕様!?
よくわからないけれど、雪かきをしないで済むんだから、ありがたいと思うべきなんだろう。
「そういえば、ビャクヤたち、大丈夫かしら」
今日に限って、子供たちはうちの厩舎にいなかった。この雪の中、あの洞窟にいるんだろうか。
スッと山頂のある方へと目を向けるけど、吹雪いているせいで、全然見えない。
「ふむ……元々野生だし……大丈夫……なのか?」
と思っていると、湧き水側の出入り口の雪の壁の上の方から、4匹が飛び降りてきた。
『なんと……さすが五月様の結界……ここまでとは思いませんでした』
驚いた声をあげたビャクヤの声に、私の方が驚かされる。
「け、結界!?」
『おや、お気づきではなかったのですか?』
4匹がぶるるっと震えて、体中の雪を降り落した。
『ちょうど、この柵の周辺に強力な結界が張られておりますよ』
『まさか、吹雪まで防ぐとは思いもしませんでしたがね』
それは、私の方が言いたいわっ
「やっぱり、上、酷いんじゃない?」
『ええ、ちょうど雪が吹き込んできて、厳しかったので……しばらくお邪魔しても?』
「構わないよ~、せっかくだから、ここでゆっくりしていきなよ」
――どうせなら、春、温かくなるまでいればいいのに。
そう思った私なのであった。
* * * * *
子供たちが五月に纏わりついている間、ビャクヤとシロタエは、不安そうに結界の外、吹雪の先に目を向ける。
『この時期に、こんな吹雪って珍しいわね』
『……ああ』
この地で雪が降らないわけではない。
しかし、ここまで積もるのは、かなり珍しいことだった。
『まさか古龍様絡みじゃないわよね』
北の山奥に眠っているはずの古龍が、目覚めたせいで、天候が荒れているのか。
稲荷が挨拶に行くと言っていたことを思い出し、不安になるビャクヤたち。
『しばらく様子を見るしかあるまい』
『そうね』
2匹は立ち上がると、子供たちの姿を見た後、厩舎の方へと歩いて行った。





