第818話 ドゴールさんのめでたい話
東屋に残ったのはBランクパーティー『焔の剣』の面々。私とエイデンもそのまま東屋の中へと入り、お茶をいただく。
エイデンは獣人のマックス(熊)やキャシディ(虎)と仲がいいのか、わいわいと話している。
「サツキ様」
そんな中、リーダーのドゴールさんが真面目な顔で声をかけてきた。
「はい?」
テーブルに載っていたドライフルーツに手を伸ばしながら返事をする私。
このドライフルーツは、ダンジョンの中で見つけたワサの実(リンゴと梨の中間のような味)を乾燥させたものだ。
「じ、実はですね」
何やら緊張の面持ち。
汗までたらりと垂れてきていて、手の甲で拭っている。
「なに、なに、なに」
つい『焔の剣』の面々へも目を向けると、全員がニヤニヤしながらリーダーを見ている。
――あら? もしや、これは。
私も思わず、ニヤッとしそうになったところで。
「マ、マグノリアさんと結婚したくっ」
「うん、すれば?」
「はっ?」
もしゃりもしゃりとドライフルーツを食べながら返事をすると、ドゴールさんは気の抜けたような声をあげる。
「ん、だから、結婚すればいいんじゃない? マグノリアさんが大丈夫なら、それはそれでいいと思うし。だいたい、いい大人なんだしさ」
やはり、このドライフルーツは美味しい。ついつい手が伸びる。
「よ、よろしいので」
「え、ドゴールさんは嫌なの?」
「いえいえっ! とんでもないっ! マ、マグノリアさんっ!」
ドゴールさんは顔を真っ赤にして東屋から飛び出して行く。
「……でも、冒険者はどうするの?」
不意に、マグノリアさんの前に亡くなった旦那さんも冒険者で、依頼途中で亡くなったから、冒険者はちょっと、と言ってたのを思い出したので、その場にいたメンバーに聞いてみる。
確か、息子のザックスが冒険者なのも、内心、不安だけど、生きていくためには仕方がない、と思っている、と言ってた気がする。
「冒険者は続けますが、護衛などの長期不在になるような仕事は受けなくするようだぞ」
熊獣人のマックスさんが答える。
「え、他の皆は?」
「別にリーダーが同行しなくても、サブリーダーのセッティ(エルフ)がいればなんとかなるし。まぁ、でも、チャーリーたちが育てば、奴らに任せてもいいかなと思ったりもするんだがね」
ニシシシと笑う虎獣人のキャシディさん。
「あ、もしよかったら、村の表の宿舎、うちの系列で管理させませんか」
売り込みしだしたのは、サントス(人族)。王都の宿屋の息子だ。
「え、え、え?」
「まぁ、落ち着け。まずはドゴールたちの様子を見ようではないか」
エイデンがそう言いながら視線を動かすので、つられて目を向けると、ドゴールさんが顔を真っ赤にしたマグノリアさんの手を握りながら、にこやかにこちらに向かってくる姿が見えた。