第814話 商人と村人たちの攻防(1)
ミゲーレさんとジリアンさんとの話を終えた私たちは村の中へと戻ることにした。
ジリアンさんたちはピエランジェロ司祭とまだ話すことがあるらしく、今日はそのまま宿舎に泊っていくらしい。
彼らの面倒は孤児院の子たちと、マグノリアさんが対応してくれるそうだ。
特にジリアンさんは、マグノリアさんのお手伝いをする子供たちの姿に、お子さんが小さかった頃の姿と重なるらしく、「あの子もこんな頃があったんですがね」と言いながらニヨニヨ顔を浮かべている。
ちなみに、ジリアンさんの息子さんは今回同行している騎士の中にいて、なかなかの巨体に思わず二度見しそうになった。
今回やってきた騎士たちのほとんどが貴族らしく、平民のマグノリアさんや孤児たちで大丈夫か少し不安だったけど、皆さんいい人たちのようで、問題はなさそうである。
マグノリアさんといえば、レミネン辺境伯家とのことはいいのかな、と思ってしまった。
「では、騎士様方、あちらの家へどうぞ」
笑顔を浮かべて案内をしているマグノリアさん。
すでに大人なマグノリアさん。彼女の判断に任せるしかないかもしれない。
村の中では、グルターレ商会の人たちと村人たちが楽しげにやりとりをしている。
特に年内はこれが最後だということで、村人たちは買う方も売る方も頑張っているようだ。
私はエイデンと一緒に品物が広げられている場所を見て歩いている。
「五月、何か欲しいものはあるか?」
「うーん、今のところは、まだないかな」
グルターレ商会の持ち込んでいる食料品は、村人たちが買っているし、あちらの商品を知っている私には物足りないものばかりなのが現実。
それに、最近はギャジー翁だったり、ドワーフたちが、そこそこ良い物を作ってくれるから、道具類も、目新しい物でもないと興味を惹かれない。
「これ、もう少し、まからない?」
「そう言われてもねぇ」
本来なら、村人が言うセリフだけれど、今、目の前にしているのはグルターレ商会のエルフが、オババに言っている。
何をまけてもらおうとしているのかと思えば、ドライハーブ(ラベンダー)の束だ。周囲にはラベンダーのいい匂いが漂っている。
オババの家の周りでもラベンダーを育ててはいたが、基本、調薬に使っていると聞いている。
「こいつはサツキ様のハーブだよ? そう安くはできないね」
フンッ、と鼻息荒く言いきるオババ。
かなり立派なドライハーブなので立ち枯れの拠点近くで育てているラベンダーだろうと思ったら、やっぱりだった。
「ううう、しかし、私にも予算というものが……」
「だったら、他の品物を諦めな。次は来年にならないとできないしね」
「ぐぬぬぬっ」
生ぐぬぬ、初めて見た。
そんなに欲しいんだったらと、タブレットの『収納』にしまってあるのを出そうかと考えていたら、オババと目があって首を振り、ニヤリと笑われた。
私の考えなど、お見通しのようだ。
――頑張れ~。
私は心の中で応援するだけにして、他の人たちの様子を見に行くことにした。