第813話 チャーリーたちの村の話
レミネン辺境伯家は大変なことになっているようだけれど、そんなことよりも、チャーリー兄弟の村のことだ。
「村長は息子ともども、捕まりました」
ジリアンさん曰く、村長はミエパリーノ商会に騙されたのだと言い続けていたらしい。
「モモという娘を、とある貴族が気に入っているらしいと言われて、ミエパリーノ商会から大金を貰って娘を売り払っていたらしいのです」
「え、でも、チャーリーたちの手紙って」
「手紙?」
訝し気に聞いてくるジリアンさん。
私はチャーリーたちから、村長からの手紙を貰って村に戻るところを襲われたと言っていたことを話すと、ジリアンさんの眉間には深い溝が浮かび上がる。
「ミゲーレ殿、私はその話は聞いていないが」
「は、はい。私も初めてです。ミエパリーノ商会の連中は、借金奴隷にしたと言ってまして……」
「……ちゃんと調べてくださいね」
思わず、据わった目で見てしまった私。ビクッと身体を震わせたミゲーレさんは、高速で頷く。
「それで、チャーリーたちのご両親は」
「ああ。息子たちと連絡がとれていなかったことと、娘がまさか売られていたなんて知らなかったらしく、母親のほうはショックで倒れてしまいまして」
「大変じゃないですか」
私は思わず、腰を浮かしてしまう。
「今は村人たちが面倒を見てくれているようで、大丈夫だとは思いますが、早めにチャーリーたちは村に戻らせてやりたいとは思っております」
そう言われてホッとする。
でも、急いで戻るんだったらと思って、ふと背後のエイデンを見上げる。
ニヤリと笑うエイデン。私の考えがわかるようだ。コクリと頷く私。ここはエイデンにお願いするのが一番だろう。
「ところで、村のほうは」
「村長とその息子は人身売買に加担したということで犯罪奴隷に、一家は全員、村から放逐されました。」
「放逐?」
「はい。残っていても、彼らも居づらいことでしょう。今は村長不在なので、領都より文官が数名駐在する形になっております」
「そうなんですね……」
村長たちは、きっとバレないとでも思っていたのだろう。愚かだなぁ、とつくづく思う。
確か、村長のところには小さい孫がいたはず。その子が可哀想でならない。
「チャーリーたちの荷物などは、さきほど部下から本人たちに渡してあります」
ミゲーレさんが言う。
「また、こちらの村に対して今回の褒賞金が、ケディシア伯爵家より、少しですが出ております」
「同じくレミネン辺境伯家からも、ご用意しております」
そう言って二人とも、腰につけていたウェストポーチのようなバッグから、麻袋をテーブルの上に載せる。バッグと袋の大きさが合っていないところを見ると、マジックバッグなんだろう。
その袋がテーブルにのるたびに、ガチャリガチャリという音をたてる。
「どうぞ、お納めください」
「是非とも」
いくらぐらい入っているのか不安になりつつ、二人の真剣な顔に、どうしたものか、と一瞬悩む。
「迷惑料と思って受け取っては」
ピエランジェロ司祭が苦笑いをしながら助言してくれた。
ちょうどグルターレ商会も来ていることだ。これを使って、経済を回すのもありだろう。
「わかりました」
そう答えると、ミゲーレさん、ジリアンさん、二人ともがホッとした顔になった。