第812話 ジリアンさん、謝罪する
私たちは教会の応接室にいる。
テーブルを挟んで向かい側に、レミネン辺境伯家騎士団団長のジリアンさんと、ケディシア伯爵家騎士団副団長のミゲーレさん。
私を左手はピエランジェロ司祭、右手はドンドンさん、背後にエイデンが立っている。
見るからに偉そうなエイデンに、私は苦笑い。
相手が辺境伯家であっても、村の中には入れない。悪い人には見えないけど、それはそれ、これはこれ。
「今回のことは、誠に申し訳なかった」
深々と頭を下げられる姿を見ると、いい人そうなだけに、こっちが申し訳ない気持ちになる。それを狙っているわけでもないだろうけど。
「今回のことで、ミエパリーノ商会に調査の手が入ってな。今まで、なぁなぁにされてた様々なことが取り締まりの対象になった」
「……老舗って聞いてますから、色々ありそうですよねぇ」
「先々代までは、よかったんだがな」
遠い眼差しになるジリアンさん。その先々代とは何かしらあったのかもしれない。
ちなみに、ジリアンさんはレミネンと名乗るだけあって、現辺境伯とは親戚らしい。先々代の辺境伯の弟が子爵位を渡されてたてた家なのだとか。
現在の辺境伯家の嫡男は次男だそうだが、まだ幼いこともあって、何かあった時は、辺境伯の代理で領内を取り仕切ることになっているらしい。
そういえば、マグノリアさんも辺境伯の血筋にあたるから、ジリアンさんとも親戚になるのか。
これは伝えたほうがいいのか、悩みどころである。
「そういえば、辺境伯様は何故王都に?」
ピエランジェロ司祭の問いに、ジリアンさんは苦笑い。
「司祭殿も、ご存知なのではないか?」
「ほお? 私がですか?」
「フフフ、司祭殿が我々の領の教会に連絡を下さったと聞いている。連絡をいれたのは、そこだけではあるまい?」
「ホホホ。《《私》》はしておりませんよ?」
フフフ、ホホホ、と笑顔を張り付け、やり取りをする二人に、顔を引きつらせる私。
「何せ、『神に愛されし者』の村に手を出したのだ。ゴンフリー侯爵家のこともある。恐らく、今回の問題について、辺境伯領としての沙汰があるのだろう」
ゴンフリー侯爵家、と言われても、すぐに頭に浮かばなかったので首を傾げると、ピエランジェロ司祭が、元大司教の出身の家と言われて、ああ、あのベタベタ女か、と思い出す。
すっかり忘れていた。
「それに、陛下というよりも、妹君である王妃殿下のほうが強く言われるのではないか、と」
「そ、そうなんですね」
「ああ。辺境伯家の長男のユリウス様が王太子殿下の側近候補から外れた上に、陛下が周囲から側妃を娶るように言われているようで、王妃殿下も気が気ではないようでな。特に実家の問題など、攻撃材料になるのでピリピリされているようだ」
ジリアンさんも渋い顔だ。
今は、王妃様一人で、お子さんは王太子とまだ小さい王女様の二人だけだそう。他にも王弟の公爵のところに男の子が二人、先々代の国王の弟がたてた公爵家にも子供がいるとかで、王位継承者はいっぱいいるらしい。
それでも現在の国王の血筋を考えると、と色々言われているそうだ。
話を聞く限り、王妃様も大変だ。
そんなお貴族様たちのパワーバランスの中には関わりたくないな、とつくづく思った。
ちなみに、レミネン辺境伯家も先代からは、奥さん一人です。
先々代のトラブル(正妻さんが、第二夫人を凄惨なほどにいびりまくった)を見て育ったためです。先代は息子に、嫁だけにしておけ、とコンコンと説いたのだとか。
……よっぽどだったんだと思います(遠い目)。