第811話 本物のグルターレ商会の再訪と同行者
エイデンが戻ってきて二日ほど経った頃、グルターレ商会の馬車がやってきた。
ぞろぞろと馬車が村の中へと入っていく。今回はちゃんと本物のようだ。護衛のBランクパーティ『焔の剣』の姿も見える。
いつもの面々にホッとする。
しかし、いつもと違うこともある。
「ご迷惑をおかけしました」
げっそりとやつれたカスティロスさん。
美形エルフの姿が、若干、陰りを帯びている。
「だ、大丈夫ですか?」
「はぁ。まったく、今回はミエパリーノ商会の連中にやられましたよ」
話を聞くと、レミネン辺境伯領に入った頃から、やたらと盗賊に襲われたそうだ。それでも、Bランクパーティーの『焔の剣』のおかげもあって、特に問題なく領都までは入れたらしい。
しかし、領都に入ったら入ったで、定宿にしていた宿屋から宿泊を断られ、なんとか見つけた宿屋では、食事に何か混ぜ物をされたようで、それに中った者たちが軒並み体調不良になったという。
そんなところへ、レミネン辺境伯領の騎士たちがやってきて、今回のトラブルを聞かされたのだとか。
「オババ殿から買い付けた解毒薬のおかげで、大事には至りませんでしたが、散々でしたよ」
「お、お疲れ様です」
体調をなんとか戻したところで、すぐにこの村へと向かったらしい。
「無理されたんでしょ。少し、村で休んでくださいね」
「すみません……ああ、そうだ。今回のことで、辺境伯様のところからご同行されている方がいらっしゃいまして」
「え、そうだったの?」
カスティロスさんが後ろを振り向いたので、私も視線を向ける。
宿舎の敷地には入れたものの、村の正門の中に入れず、困惑している人々の姿が目に入る。
騎馬に乗った騎士っぽい人たちだ。その中には、なんとケディシア伯爵家の騎士団で副団長のミゲーレさんの姿もあった。
一応、ドンドンさんが話をしているようだけれど、私も慌てて正門まで行く。
「サツキ様」
ホッとした顔のドンドンさんに、私はこくりと頷く。
そしてミゲーレさんと目が合ったので、ぺこりと頭を下げる。
「……なぜ、我々は村に入れないのだ?」
先頭に立っている騎馬に乗っている騎士が、不思議そうな顔で問いかける。ミゲーレさんよりも年上のようで、グレーの顎鬚をたくわえた、なかなか立派な体格のオジサマだ。
威丈高ではない感じが好感が持てる。
「それは」
「それは、結界が張ってあって、お前たちは入る条件に当てはまっていないからだ」
私が答えようとしたところに、いつの間にやってきたエイデンが背後から声をあげた。
「そうであるか」
少し考え込むオジサマ騎士に、後方にいたミゲーレさんが馬から降りて、小走りに私たちのところへとやってきた。
「モチヂュキ様、遅くなりまして申し訳ございません。ジリアン様、こちらが『神に愛されし者』であるモチヂュキ様です」
ミゲーレさんの言葉に、ジリアンと呼ばれたオジサマ騎士が私の顔を見て、呆気にとられた顔になる。
「ミゲーレ殿、それは誠か」
「はい、ですから……」
ミゲーレさんが困ったような顔をしながら言うと、ジリアンさんが慌てて馬から降りたかと思ったら、そのまま跪いた。
「は?!」
「失礼いたしましたっ! 私、レミネン辺境伯家、騎士団で団長を務めております、ジリアン・レミネンと申します。本来、領主自らが謝罪に行くべきところ、急遽、王家に呼ばれてしまい、私が代わりに謝罪に参りましたっ」
「へっ?!」
目の前の状況に、まともな言葉が出ない私なのであった。