第810話 エイデンの魔力
グダグダと話すエイデンの話を要約すると。
白狼族の住む村は、ビヨルンテ獣王国の中でもかなり北にあるそうで、人が住む村としては最北端にあるらしい。
そして、エイデンが長年籠っていた山に一番近い人が住む村でもあったそうだ。
近いといっても、かなり距離はあるようだけど。
その山から、エイデンの魔力がじわじわとあふれ出ていたらしく、周辺ではエイデンの魔力のおかげで(いや、せいで、か)強力な魔物がうじゃうじゃ増えていたらしい。
その上、質が悪いのが、ある一部の地域で瘴気が濃く滲んでいる場所も見つかり、それと交わった場所から、多くのブラックヴァイパーが沸きだしていたそうだ。
「でも、俺が山から離れて魔力が流れなくなったせいか、徐々に魔物たちは弱体化したようで、南下していったらしい」
「そういえば、最初にビャクヤたちと会った時に、ブラックヴァイパーに襲われたけど……まさか、それも」
「その頃は、まだ俺は山の中だ。だが……多くのブラックヴァイパーがいたから、ないとは言えないな」
エイデンでもわからないようだけど、どんだけ長距離を移動してきたんだ、と唖然とする私。
「今回のブラックヴァイパーたちは、おそらく、白狼族の儀式の場所が、奴らには居心地がいい場所だったのだろう」
「居心地がいいって……」
ヘビの居心地がいいところで、儀式をしなきゃいけなかったガズゥを可哀想に思うのは私だけだろうか。
「白狼族の連中も、何度も討伐していたようだが、数が数だけに、狩り切れていなかったようだ」
「うわぁ~」
「と、とにかく、瘴気が滲む場所は消し飛ばしたんで、もう大量のブラックヴァイパーは湧かないはずだ」
ムフンッ、と自慢げなエイデンだけど、『消し飛ばす』という不穏な言葉に、ノワールのほうを見る。
「うん、あれだけ深い穴をあけたら、湧いたとしても地上まであがるのは大変だと思うよ」
「ちょ、ちょっと、大丈夫なの!?」
「大丈夫、大丈夫。ユグドラシルのばあさんが、根を伸ばしてたからな。そのうち消えるだろう」
ユグドラシルのばあさんとは、うちのユグドラシルの親にあたる木だという。
……さすが、異世界クオリティ。
「それよりも、こっちは大丈夫だったのか?」
「うん?」
「風の精霊たちが急かすものだから、これでも急いで帰ってきたんだが」
「あ、ああ!」
グルターレ商会を騙ったミエパリーノ商会のことを、エイデンに知らせてくれていたらしい。
もしかして、瘴気のある土地を消し飛ばしたのは、そのせいだったりしないだろうか。聞くのが怖くて、顔を強張らせる私。
「大丈夫よ~。精霊たちがやってくれたし、ドンドンたちも頑張ったのよ」
マリンがエイデンを見上げながら答える。
「そ、そうなの。今は、被害者の子たちを教会で預かってもらってて、ケイドンの街からの報告待ちってとこかな」
「そうなのか。あんまり、遅いようなら、俺が出張ってもいいんだぞ」
「いやいや、まずは、待とう? 風の精霊たちが教えてくれてる感じだと、そろそろ来るんじゃないかと思うんだよね」
「ふーん?」
「それよりも、ビャクヤたちや、ガズゥたちの情報を教えてあげなきゃ」
私はハノエさんに連絡するべく、『すまほ』に手を伸ばすのであった。