第808話 マリンのネックウォーマー
今日は朝から雨が降っていて、肌寒い。
暖炉の前には、子供の姿のマリンとセバスが陣取っている。暖かいせいか、二度寝をしているようだ。
朝の一仕事を終えた私は、リビングの椅子に座りながら、インスタントのホットコーヒーを飲んでいるところだ。
ケイドンの街の領主、ケディシア伯爵家からは、まだ何の連絡もない。だからチャーリーたちは教会で待ちの状態。
情報は時々風の精霊たちが教えてくれるので、それほど焦ってはいない。
捕らえられたミエパリーノ商会のロクシーたちは馬車でレミネン辺境伯領へと護送されているらしい。
レミネン辺境伯領とケディシア伯爵領は隣同士とはいえ、辺境伯領の領都とは距離がある。移動は馬車だし、こちらの馬車の性能はそれなりだから、時間もかかるだろう。
どうも辺境伯家でミエパリーノ商会の処罰をまとめてするらしく、護送を求められたらしい。
これで厳罰でなかったら、辺境伯領は精霊たちに見放される、とピエランジェロ司祭が教会経由で伝えた(脅した?)らしく、かなり必死らしい。(風の精霊情報)
早いところ解決させて欲しいものである。
「ふぅ~」
窓の外を見る。昼間だけど、少し薄暗い。
こんな天気の日は、黙々と作業できるようなものをするのが一番だ。
「あ、ネックウォーマー作ろうかな」
そろそろ冷たい風で首をすくめるような時期だ。
子供の姿の時のマリンとノワール用のネックウォーマー。ドラゴンや聖獣バスティーラの姿の時は使いようがないけれど、人型の時の首元は、見ているこっちが寒く感じるだろう。
編み方がワンパターンなので、集中したら私でもすぐに編める。
「よし」
コーヒーを飲み切ったマグカップをキッチンに持って行ってサッと洗う。
タブレットの『収納』にしまい込んであった編み物道具(編み針や毛糸各種)一式を取り出す。毛糸の量が増えたので、プラスチック製の衣装ケースに入れてある。
「どれにしようかなぁ」
前はあちらで買った毛糸が多かったけれど、今は半分以上がこちらで獣人のジジババたちが作った毛糸になっている。
最初の頃は赤や青といった単一色だったけれど、まだら毛糸も紡がれるようになった。
――ピンク系のが可愛いかも。
マリン用のネックウォーマーを作ろうと、ピンク系の毛糸の束を取り出して、いざ、編み物タイム。
ガズゥたちにあげたのよりも毛糸が太目。少し大きい編み目でゆったりした感じにしよう。
パチパチと薪が爆ぜる音をBGMに、私は黙々と編み針を動かす。
「何作ってるの?」
目が覚めたマリンがそばに立って聞いてきた。
「ん~、ネックウォーマー」
「それって、ガズゥたちが首にしてたヤツ?」
「そうそう。まだ半分しかできてないけど……」
マリンの首元にあててみる。うん、可愛い。
「これ、私の?」
目をキラキラさせながら聞いてくるマリンが可愛い。
「そうよ~。もうちょっと待ってね」
「うんっ!」
元気よく返事をしながらも、そばから離れずに私の手元を見ている。人から見られるのは、ちょっと恥ずかしい。
不意にマリンが窓際へと動いた。
誰か来たのかな、と思いつつ、キリのいいところまで編み進めようとしていると。
「エイデンが帰ってきた!」
マリンが嬉しそうな声をあげた。