第807話 『神に愛されし者』の威力
ミエパリーノ商会の面々が引き取られてから三日ほど経った。
その間、チャーリーたちは何をしてるかといえば、教会で世話になっているからと、薪割や孤児院の子供たちの世話をしてたりする。
残念ながら村の中には入れていない。
どうしようもなかったとはいえ、ミエパリーノ商会をここまで連れてきてしまったことを、村人たちがあまりいい顔をしていないからだ。
ただ、彼らもミエパリーノ商会の被害者でもあるので、小遣い稼ぎ程度の仕事として、自分たちでもできるというのに、魔物の解体を任しているようだ。
モモちゃんは孤児院の子供たちと一緒に教会で、マグノリアさんの手伝いをしているようだ。
ピエランジェロ司祭は辺境伯領の教会に連絡を入れてくれているようだけれど、人の関係なのか、仕組みの問題なのか、すぐに返事が戻ってくる感じでもないようだ。
待っている私のほうがイラついてきたので、風の精霊たちに頼んで、彼らの村を調べてもらうことにした。
「ご両親たちも心配してるみたい」
私たちは今、教会の中の一室にいる。
この場にいるのは、ピエランジェロ司祭と私、チャーリー兄弟の5人。その他、見えないだろう精霊たちがワサワサしている。鬱陶しいと感じるのは私だけである。
「……そうですよね」
三兄弟はしょんぼりした顔をしている。
彼らが私の言葉をすんなり信じているのは、ピエランジェロ司祭の影響が大きいようだ。私が『神に愛されし者』であると、こんこんと語ったに違いない(遠い目)。
風の精霊たちが調べてきてくれたことによると、モモちゃんは村長の家で倒れて、ちょうど村に来ていた医師が連れて行って、領都で治療を受けていることになっているらしい。
こちらでは、医師に診てもらうというのは、お金のかかるものらしく、村長が金まで出してくれていると聞いた両親は、すっかり信じてしまい、感謝すらしているらしい。
……単純すぎる。
しかし、実際はお金など出すわけがなく、むしろ医師と騙っていたミエパリーノ商会の者からお金を貰っていたらしい。
主犯は村長とその息子。チャーリー兄弟を呼び出す手紙も彼らで間違いないらしい。ミエパリーノ商会から提示された金額が、よほどよかったようだ。むしろ、金持ちに買われたモモちゃんは幸せだ、くらいのことを言っているらしい。
最低である。
「そんな……」
さすがにモモちゃんがいる前で、村長たちの悪意を晒すわけにもいかないので、それは言わなかったけれど、それなりに村長たちを信用していたチャーリーはがっくりと肩を落としている。
すると、風の精霊たちが騒ぎ始めた。
「どうしたの」
『あっ。あのね』
『へんきょうはくのところのひとたちがきたらしいよ』
「へぇ!」
司祭のところには返事は来ていないけれど、ちゃんと動いてはくれたようだ。
私が一人で反応しているものだから、その場の皆の視線が私に集まる。
「あ」
「どうされましたか」
「えーと、風の精霊たち曰く、村に辺境伯家の人たちが来たらしいです」
「本当ですかっ!」
ガタリと立ち上がるチャーリー。エヴィスもモモちゃんも目を大きく見開いている。
「思ったより、早かったですね」
ピエランジェロ司祭はニンマリと笑う。
「早い?」
「ええ。ケディシア伯爵家からの連絡はあったでしょうが、ミエパリーノ商会自体、辺境伯領でも老舗の商会。辺境伯家にも食い込んでいることでしょう。しかし、さすがの辺境伯様も『神に愛されし者』に関わる事案には、すぐに対応されたようですね」
「……あはははは」
どういう連絡をしたのかわからないけど、早く解決するなら、まぁ、いいか、と思った(遠い目)。