第804話 真面目騎士登場
ピエランジェロ司祭が戻ってきたのは、ケイドンの街へ向かって村を出て四日後のことだった。
私は前回同様、ドンドンさんとギャジー翁、それにチャーリー兄弟を引き連れて宿舎の敷地までやってきた。
「お兄ちゃんっ!」
馬車から小さい女の子が飛び降りたかと思ったら、出迎えたチャーリーとエヴィスに向かって走ってくる。
敷地の境目には結界があるのを知っているチャーリーたちは、慌てて妹のほうへと駆けていく。
「モモ!」
「よかった、よかった……」
涙、涙の兄弟の感動の再会、と心温まるシーンのはずなんだけれど、そういう気分になれないのは、村に戻ってきたのがピエランジェロ司祭たちだけではなかったからだ。
「申し訳ございません」
ピエランジェロ司祭も困ったような顔をしている。
それもそうだろう。うちの馬車の後ろに、騎馬に乗った騎士っぽい人たちを連れてきたのだから。
「……あちらさんは」
「はい。ケイドンの街の領主であるケディシア伯爵の騎士たちでございます」
「なるほど?」
「ミエパリーノ商会の者たちを引き取っていただけるということで、お連れしました。チャーリー殿たちの妹さんを救出するのにも手伝っていただいたので、断れず」
司祭様と話していると、チャーリーたちは結界の中へ戻ってきた。妹のモモちゃんの周りには光の精霊たちがついていることからも、彼女に悪意はないだろう。むしろ、10歳くらいで悪意とかあったら、怖い。
その間に、騎馬から降りた一人が私たちのところへ来ようとした。
――あ、大丈夫かな。
少し心配しながら見ていると、騎士はするりと結界を超えてやってきた。
ドンドンさんと同じくらいの背丈の騎士は、端正な顔立ちの三十代くらいの男性だ。宿舎の建物などに興味があるのか、チラチラと周りを気にしている。
「ミゲーレ殿」
「ああ、ピエランジェロ司祭、すまん。随分と立派な建物だなと思って、ついな」
「……サツキ様、こちらケディシア伯爵家の騎士団で副団長を勤めておられる、ミゲーレ・ワイス殿です」
私はチラリとミゲーレさんに目を向ける。
――あらあらあら。風の精霊たちがまとわりついているわ。
妹のモモちゃん同様に、精霊たちに気に入られている様子を見れば、この人は信用できそうだ、と安心する。ギャジー翁に目を向けると、彼にもわかるようでコクリと頷かれた。
「ミゲーレ殿、こちら、『神に愛されし者』であるサツキ様です」
ピエランジェロ司祭が厳かな声で私をそう紹介すると、ミゲーレさんはピシリと一瞬固まったかと思ったら、すぐさま片足で跪いて頭を下げた。
「え、え、え?」
「失礼いたしましたっ! サチュキ様! ケディシア伯爵家、騎士団にて副団長を勤めておりますミゲーレ・ワイスと申しますっ!」
お腹から出ている声量に、思わず、ビクリとなる私。
気が付けば、後ろにいた他の騎士たちも馬から降りて、ミゲーレさん同様に跪いている。
「いやいや、あの、どうぞ立ってください」
「ミゲーレ殿、過剰な敬意は、サツキ様は望まれておりませんよ」
「しかし」
「ミゲーレ殿」
「はっ」
いかにも渋々といった感じで立ち上がるミゲーレさん。
悪い人ではないのだろう。むしろ、真面目そうで……ちょっと融通がきかなそうだ。