第803話 商会をぶっ潰す準備と、ヤる気の精霊たち
巨大な蔓に巻き取られた男たちを放置して、私たちは一旦、宿舎の一つに入った。
ブルーベリーのジャムで肉体的にはなんとか復活したエヴィスだったけど、チャーリー同様に酷い扱いだったようで、大柄なドンドンさんを見ただけで、怖がってチャーリーにしがみつく始末。
可哀想過ぎて、チャーリーにエヴィスが落ち着くまで、この家で身体と心を休めるように言うと、私たちは二人を残し、家を出る。
「……あとは妹さんの救出と、あいつらの商会をぶっ潰してしまいたいね」
怒りをこめて、グッと両手を握る私。
「ケイドンの街でしたら、私が行ってきましょう」
名乗り出たのはピエランジェロ司祭。
「ついでに領主様にも、あの者たちのことを伝えておかねばなりません」
「そうね。本拠地は辺境伯領なんだっけ?」
「はい。私の記憶が確かなら、ミエパリーノ商会はそこそこ老舗だったはず。代替わりで、店が変わってしまったのかもしれませんね」
先代はなかなかのやり手だったそうだけど、今の商会長は質が悪かったようだ。
「私たちよりも、ケイドンの領主から伝えてもらうほうが、ちゃんとやってくれるかなぁ」
「いえいえ!サツキ様のお名前でも、十分かと!(ケディシア伯爵からの接触もないくらいだ。さすがに、王家から話はいっているだろう)」
「そんなことないでしょ。やっぱり、司祭様のほうが名前も知られているでしょうし」
ということで、ピエランジェロ司祭にケイドンに向かってもらうことになった。護衛には、ザックスの他にスコル、メリーご夫妻が変化の腕輪を付けて同行することに。
ピエランジェロ司祭がケイドンの領主と、辺境伯宛の手紙を用意している間に、馬車を用意する。馬のゴーレムでひく馬車だ。普通の馬車よりもスピードが違うし、結界付だから何かあっても大丈夫だろう。
『いもうとちゃんなら、わたしらでつれてこれるよ?』
『びょーんって』
『ぎゅーんって』
『パッてとんでさ』
「……それ、妹さん、怖くて泣いちゃうパターンじゃないの?」
『……』
『……かもね?』
「とりあえず、司祭様が迎えに行くまで守ってあげて? 人質にしてるんだから、小さな子をどうこうするとは思いたくないけど、何事も万が一ってのがあるからね」
『はーい』
『あたし、いってくるー』
『おれもー』
そう言って飛んで行ったのは風と光の精霊たち。暴走しないことを祈りつつ、私の視線は宿舎の敷地の外に生えた、巨大な蔓へと目を向ける。
ちなみに、馬車をひいていた馬たちは最初こそ驚いていたけれど、精霊たちのおかげなのか、すぐに落ち着いて草を食み始めている。
「あとは、アレをどうしようか」
今では叫び声も聞こえなくなった揉み手男たち。かなり蔓も伸びて姿の確認もできない。
――生きてるよね?
少しだけ不安になった私だった。
* * * * *
『ケ・イ・ド・ン、ケ・イ・ド・ン』
『ケ・イ・ド・ン、ケ・イ・ド・ン』
風と光の精霊たちは、ケイドンの街へ向かって凄いスピードで飛んでいきながら、楽し気に声をあげている。
『みえてきた』
『どれどれ』
『いもうとは、どこだ?』
『ん~? あ、あのたてものか』
精霊たちは、ミエパリーノ商会のケイドン支店を見つけると、すぐにチャーリーの妹の押し込められている部屋を見つけた。
妹が押し込められていた部屋は、穀物などが山積みされている倉庫の奥。
泣きつかれて、眠っている様子に、精霊たちは心配そうな顔になる。
『……つれてかえっちゃダメかな』
『でも、サツキがまもれっていってたし』
『じゃあ、じゃあ、これだけでも、はずしてもいいかな』
風の精霊が指さしたのは、妹の両方の足首に付けられている鉄の拘束具。鎖の先には丸い鉄がついている。
『あかくなってる。いたそうよ?』
『とっちゃえ、とっちゃえ』
パキンッ
鉄の割れる音がすると、『いえーい』とハイタッチをして喜ぶ精霊たち。
『さぁ、あとはこのこをまもるわよ!』
『おー!』
『さぁ、こーいっ!』
ファイティングポーズをきめる精霊たち。
……店の者たち、来ない方が身のためだぞ。