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山、買いました ~異世界暮らしも悪くない~  作者: 実川えむ
四度目の冬支度
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第802話 最後の糸、切れる

 ピエランジェロ司祭に「ニック」と呼ばれた男の人は、驚いたような顔でこちらに目を向ける。


「お前さんは、確かフォンダンさんのところで雇われていなかったかい?」

「……司祭様、フォンダン商会は少し前に潰れましたよ。使用人たちが路頭に迷うのは可哀想なんで、うちで雇っているんです」 


 揉み手男(名乗らないのだもの、いいよね?)が、ニヤニヤしながらピエランジェロ司祭に答える。


「……そうなのかい?」


 ニックへ心配そうな顔で問いかける司祭に、ニックは顔を青ざめながらコクリと頷く。


 ――絶対、なんかあったよね!


 私でも、そう思ってしまうくらい、ニックの様子はおかしく感じる。


「さぁさぁ、それよりも商品を」

「グルターレ商会からしか買わないって言ってるよね」


 いい加減、私も我慢の限界。

 揉み手男が続けようとしたところで、ドンドンさんの隣に出る。


「は? え、こちらは」


 キョトンとした顔をした揉み手男。


「名乗りもしない相手に、話す必要ないよね? ていうか、いらないって言ってるのに、しつこい」

「貴様」

「さっさと帰って。あ、そうだ。三台目の馬車に乗ってる子は置いてって」


 私の言葉にカッと怒りの表情を浮かべる揉み手男。


「チャーリー、てめぇっ! しゃべりやがったのかっ」


 揉み手男は怒鳴るけど、チャーリー含め私たちは結界の内側にいる。

 それに怒鳴られる前に、ピエランジェロ司祭が、腕を引いて自分の隣へと移動させていた。


「おいっ、こいつの弟を連れてこいっ。チャーリー、弟がどうなるかわかってんだろうな」

「うっ……」

「大丈夫、大丈夫」

「何が大丈夫なんだっ。クソッ、せっかくここまで来たっていうのにっ」


 私が軽く言うと、ギロリと睨みつけてくる揉み手男だけど、全然、怖くない。


「……あんたたちは、やっちゃいけないことを、やっちゃったんだもの。自業自得よねぇ」


 そう言っている間に、揉み手男の護衛だった男にチャーリーの弟がずるずると引きずられてきた。かなり顔色が悪い。身体が麻痺しているせいか、色んな体液で汚れまくっている。


 ――ひどすぎる!


 ピッキーンッと、私の最後の糸も切れた模様。


「……悪い奴らは、縛り上げちゃって」

『はーい!』


 ドンッ


「うえっ!?」


 土の精霊たちが、嬉しそうに返事をしたかと思ったら、男たちの足元から巨大な蔓が生えてきた。

 そして、ぎゅるぎゅるぎゅるっと勢いよく男たちを巻き上げていく。馬車の中にいたはずのミエパリーノ商会の男たちも蔓に引きずりだされ、巻き上げられている。

 高さはどこまでいったのだろう。うちのユグドラシルくらいの高さがありそうだ。

 その間、男たちの叫び声が上のほうで微かに聞こえてくるけど、そんなことは気にしてられない。私たちは倒れているチャーリーの弟を助け出し、結界の中へと連れこんだ。


「エヴィス! エヴィス!」


 チャーリーはボロボロ泣きながら、弟の名前を呼んでいる。

 ギャジー翁が厳しい顔でエヴィスの首についている『隷属の首輪』を外している。私はその間に、タブレットの『収納』から、前に作って保存していたブルーベリーのジャムの瓶を取り出した。


「これ、飲める?」


 エヴィスにスプーンですくったジャムを見せる。

 視線は動き、ごくりと喉がなった音がした。これなら大丈夫かもしれない。

 私は、ほんの少しだけスプーンの先にジャムをとって、エヴィスの舌にのせると、エヴィスはコクリと飲み込んだ。2回、3回とジャムを飲み込んでいくうちに、エヴィスの身体の麻痺が取れたらしく、5回目くらいには自力で身体を起こせるまでになった。

 ……さすが異世界クオリティ。


「よかった……」

「ありがとうございます! ありがとうございます!」


 チャーリーは号泣しながら、土下座をしまくっていた。


「いいよ、いいよ。弟さんが救えてよかった」


 ――あとは妹さんも助けないと。


 上空で叫び続けている男たちを睨みつける私なのであった。

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