<チャーリー>(3)
馬車に揺られること3日。
その間、チャーリーとエヴィスは日に1回しか食事は与えられず、チャーリーがどこに行くのか、とか、何の目的で、とか聞く度に暴力を振るわれた。
そして到着したのがケイドンの街。
すでにボロボロになっていたチャーリーたちだったが、馬車から降ろされたのはミエパリーノ商会の支店の裏。
そこで待ち受けていたのは、ミエパリーノ商会のロクシーだった。
「チッ、ようやくかよ」
「すみません、坊ちゃん」
地面に倒れこんで立ち上がれない二人を見下すように、腕を組んで立つロクシー。
「まぁ、いい。さて、チャーリー、グルターレ商会の行き先について吐いてもらおうか」
「えっ」
「ほら、さっさと言え」
「グホッ」
チャーリーの腹にロクシーの蹴りが入る。
「兄ちゃんに何すんだっ!」
「うるさい。おい、そいつを黙らせろ……そうだ、アレを使ってみろ」
ニヤリと嫌な嗤いを浮かべるロクシー。
彼の言葉に、チャーリーたちを連れてきた男は苦い顔をしたが、逆らうことなく、建物の裏口のドアから中に入る。
「お、弟に手を出すなっ」
「じゃあ、素直に行き先を吐け」
「そ、それはっ」
「兄ちゃん、ダメだっ。それだけは、ダメだっ」
一度でも契約を破ると、『炎の盾』としてグルターレ商会からの依頼は受けられなくなる。
エヴィスが叫んでいると、先ほどの男が建物から出てきた。その手には小さな瓶。
「本当にやるんですか」
「ちゃんと効能を確認するのは必要だろ」
「……はぁ」
男は渋々といった感じでエヴィスの傍に行くと、彼の身体を起こして無理やりに小瓶の中身を飲ませた。
「ゲホゲホッ……な、何を……」
そう言っているうちに、エヴィスは目を見開いたまま、力なく倒れこむ。
「な、何を飲ませたんだっ」
「なぁに、身体を麻痺させる薬さ。うん、ちゃんと効いてるようだな」
エヴィスの身体を足先で蹴るロクシー。
「解毒する薬はあるぞ。まぁ、時間が経てば麻痺も治るといえば治るが、あんまり長い間この状態が続くと、後遺症が残るかもしれないなぁ」
「くっ」
チャーリーはエヴィスに目を向けるが、エヴィスの瞳には『絶対にダメだ』という意思が浮かんでいる。
「……ったく、強情な奴らだな。おいっ、連れてこい」
「……」
再び建物の中に入った男が連れてきたのは、村で病気になっているはずの妹のモモ。格好からは、特に酷い扱いをされている様子は見られない。
「何? いつになったら……えっ」
「なっ、モモ!?」
「お兄ちゃん? お兄ちゃんっ! どういうことっ!」
不機嫌そうな顔をしながら出てきたモモだったが、地面に倒れこんでいる兄たちの様子にパニック状態になってしまったので、早々に建物の中へと戻される。
「どういうことだよっ!」
「どうもこうも。兄貴たちのところに連れていってやると言ったら、ほいほいついてきたんだよ」
「なっ、そんなわけあるかっ!」
「子供は単純でいいねぇ。まぁ、このまま、お前が吐かなければ、どこかの街の娼館にでも売り払ってもいいんだがな。まだ10歳だったっけ? 大きくなれば、そこそこの美人になりそうだし」
「い、妹は関係ないだろうっ!」
ロクシーはしゃがんで、チャーリーの顔を覗き込む。
「さっさと、行き先を吐け。そしたら、弟も妹も助けてやってもいい」
「くそっ!」
チャーリーは最後の力をふり絞って、立ち上がってロクシーへと体当たりをしようとしたのだが。
「ぐあっ!」
身体を激しい痛みが駆け巡る。
「おいおい、ご主人様に暴力はいけないなぁ」
ニヤリと嗤って自分の首のあたりを指さすロクシー。
「お前たちの首につけているのは『隷属の首輪』だ。俺を攻撃することはできない。遠くへ逃亡することもできない。本来なら、意思をなくすこともできるんだ。緩めの設定にしてるのは、お前の意思で吐くまで待ってやってるんだ。感謝しろ」
ロクシーの言葉にチャーリーは絶望の表情を浮かべた。
チャーリーは、グルターレ商会と偽るミエパリーノ商会を連れて五月たちの村へとやってきた。
その地で希望の光が見えるとは、思ってもいなかったチャーリーだった。