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山、買いました ~異世界暮らしも悪くない~  作者: 実川えむ
四度目の冬支度
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第800話 人質

 ドンドンさんが、厳しい顔で人族の若者の対応をしている。

 冒険者の若者は、チャーリーというらしい。パーティ名は『炎の盾』。『焔の剣』をリスペクトしてるんだろうか。

 他のメンバーはどうしたのかと聞くと、今は別行動をしていて、今回の護衛依頼に、彼だけが参加しているらしい。

 オドオドしている彼は、同行している『グルターレ商会』が中に入れないので、どうにかしてほしい、と伝えにやってきたそうだ。

 この場所からは見えないのに、チラチラと後方の『グルターレ商会』の馬車の方を気にしている。


「ギャジー翁」


 私は隣に立っているギャジー翁にこっそりと耳打ちする。


「風の精霊たちが、この子が『隷属の首輪』をしてるっていうんだけど」


 頭の中には、前にガズゥたちが付けられた『隷属の紋』と、ボロボロだった彼らの姿を思い出して、つい苦々しい顔になってしまう。


「はい。私にも聞こえました」


 ギャジー翁も厳しい顔をしている。


『さつき~』


 また別の風の精霊が飛んできた。


『なんか、あいつらのばしゃのなか~、ボロボロのひとのこがいる~』

『こいつのおとうとみたい~』

『れいぞくのくびわしてる~』

『どくにおかされてる~』


 それを聞いて、私が黙っていられるわけもない。

 私はドンドンさんの後ろから出てきて、目の前のチャーリーを睨みつける。

 

「ねぇ」


 私が低い声で問いかけると、チャーリーはビクリと身体を震わす。


「もしかして、脅されてる?」


 私の言葉に、チャーリーは顔色を悪くする。


「お、脅されてなど……」

「大丈夫。弟が、人質?」

「!?」

「あいつら、何者?」

『ひとぞくだね』

『エルフじゃない』

「グルターレ商会の人たちじゃないでしょ」


 ガタガタと身体が震えだすチャーリーの肩に、ギャジー翁がポンっと軽く手をのせる。

 

「安心しなさい。まずは、その首輪を外そう」

「!? でもっ」

「このタイプなら、私にかかればすぐに外せる(人族が作った魔道具だな……それも、随分と質の低い……よく、こんな物を使おうと思ったものだ)」

「外すと相手にわかるんじゃ」

「フッ、そこまで高性能なものじゃない。動くでないぞ」


 顔を青ざめながら慌てて自分の首元を隠すチャーリーに、ギャジー翁が優しく諭す。

 実際、ギャジー翁の言うとおり、彼の首につけられていた『隷属の首輪』は、カチリという音とともに簡単に外れた。首には首輪の跡が赤くついていて痛々しい。

 黒く薄汚れた金属製の首輪には、複雑な紋様が刻まれていて、私には見るからにヤバそうな物に見える。


「う、ううう」


 チャーリーは声を押し殺して、泣きだしてしまった。

 ずっと、辛かったんだろう。そう思ったら、沸沸と怒りがわいてくる。


『ふぉー! さつきがぁぁぁ』

『おこってる~!』

『いやっほー!』


 精霊たちの興奮した声に、いつもなら冷静になるところなんだけど、今回は収まらない。


「まずは、弟さんを助けないとね」

「どうしますか」


 ドンドンさんも怖い顔だ。


「馬車の台数は3台です」

『ひとじちはいちばんうしろのばしゃだよ』

「弟さんは、一番後ろの馬車にいるのよね?」

「は、はい。でも、妹が」

「妹?」

「ケイドンの街にいる奴らの仲間に、妹が捕まっててっ……う、うう」


 チャーリーの言葉に、私は思わず、ギロリと敷地の外にいるはずの馬車の方へと視線を向けた。

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