第796話 冬の準備の買い出し(2)
ショッピングモールに着いたので、さっそく某有名子供服の店へと向かう。
色んな冬服のディスプレイに、視線があちこちいってしまう。
「ちょっと可愛いんだけど、村で着るのには上等すぎるかなぁ」
遊び回っていたり、村の仕事の手伝いをしている姿が頭に浮かぶので、ついつい思ってしまう。
そういえば孤児院の年少組の中でもお姉さん、お兄さんなルルーやエフィムたちも、だいぶ大きくなったのを考えると、この子供服のお店よりも、ファストファッションのお店に行った方がいいかもしれない。
とりあえず、小さい子たちの服をカートに入れて、お会計。
そのままの流れでファストファッションの店へ行くと、ディスプレイされていたフリースのジャケットやパーカー、ニットのセーターが、自分の好みとドンピシャの色合い。
「やだ。自分の服が欲しくなるわ」
ついつい自分の服はおざなりになっていて、同じ服ばかり着てたのを思い出す。
――お金には余裕あるんだし、自分の服も買ってもいいよね。
自分に言い訳しつつ、ポイポイとカゴに入れていく。
カゴが山盛りになってしまったのでセルフレジではなく、スタッフがいるレジへ持っていくと、レジのところにいたお兄さんにびっくりした顔をされてしまった。
大量でスマン、と心の中で謝っておく。
両手に大きな袋を下げていたので、さすがにそのまま食料品の売場に行くのも憚られたので、一度駐車場へと荷物を置きに行く。
助手席に紙袋をギューギューに載せて、ドアを閉めた。
ピロリンッ
斜め掛けのバッグの中から、スマホの着信音が聞こえた。久しぶりに聞いた音に、思わず、ビクッとなる。
――え、稲荷さん?
今ではスマホに連絡くれるのは、稲荷さんしかいなくなったので、素直にメッセージを確認してみると、会社員時代の同期からのメッセージだった。
あちらの山を買った頃に、結婚式に呼んでくれた同期だ。こちらにいる、私の数少ない(ほぼいない)友人だ。
頻繁にではないものの、こちらに来るタイミングでメッセージを送るくらいなのだが、今日はタイミングがあったのか、彼女のメッセージをすぐに確認できた。
メッセージと言っても、他愛無いことだろうなぁ、と思って確認すると。
「へー」
まさかの元カレが結婚するらしいという情報だった。すでに会社を退職している彼女なのに、情報を掴んでくるとは、さすがだなぁ、と感心する。
しかし正直、どうでもいい話なので、へー、とだけ返事をしたら、すぐに電話がかかってきた。
『五月~?』
「あ、うん」
『ちょっと、たまには電話してきなさいよねー』
セリフは不機嫌そうだけれど、楽し気な彼女の声に私も口元が緩む。
軽トラの助手席のドアに背を預けながら、お互いの近況を軽く話して、またね、と言って通話を切った。
異世界感覚が馴染んでしまっていたけれど、久しぶりの友人との会話で、改めてこちらにも私はちゃんと存在しているんだな、と実感した。
――さて、あとは食材買わなきゃ。砂糖は必須だよねぇ。
私は気合を入れて、ショッピングモールの中へと戻っていくのであった。
* * * * *
「ちょっと、何、このイケメン。え、外国人? コスプレ? 五月、どこに住んでんのよ?」
五月との会話で、互いに近況の画像を送ろうと言った友人が、後にエイデンたちの姿の写った画像を受け取って慌てたのは言うまでもない。
すぐに怒涛のメッセージを送ったけど、五月から返事が返ってきたのは、年が明けてからだったことをここに記しておく。